記念物

□贈り物ひとつ
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「佐助!! お主に頼みたいことがあるのだ」

「何です、改まって?」






* 贈り物ひとつ*







真夏の日差しがギラギラと輝く、此処は甲斐の国。
城の兵士や信玄を慕う家臣たちも、この暑さには少々バテ気味になっている。

が、甲斐の国武田信玄の秘蔵っ子である真田幸村には関係ないようだった。
忍びらしからぬ、ぐだぁっとした格好で木の上でへばっていた佐助に、幸村は大声で叫んだのだった。
この暑さに、あの暑苦しい大声は正直、いや結構参る。
己の主と解ってはいるが、鬱陶しいと思ってしまう。

佐助は返事をしながら、木の下で叫んでいる主を見つめた。
幸村は、ぴょんぴょんと飛びながら佐助が降りてくるのを待っている。
はぁ、とため息が出る。
佐助は気だるそうに身体を起こすと、枝の上から飛び降りて、音もなく着地する。


「で、何ですか? 頼みたいことって」

「むっ。佐助どうしたのだ、何やら元気がないぞ」

「そりゃあ、こんだけ暑ければねぇ」


木陰から差し込む日差しを手で遮りながら佐助は目を細めた。


「精進が足りんぞ、佐助!!」

「いや、旦那ぐらいだって、この暑さで平気なのは」

「何を言っておる!! お館様とて、元気に鍛錬を為さっておるのだぞ!?」


ぐっと拳を作りながら力説する幸村に、佐助はくらりとめまいを感じた。


「そりゃ、大将も旦那も別格ですって」

「そうだぞ!! 佐助もお館様を見習うと良い」

「……遠慮しときます。それより、何なんですか頼みたいことって」


佐助の問いに、ムッと頬を膨らました幸村は、当初の目的を思い出してハッとした。


「実はな、明後日は政宗殿がお生まれになった日なのだ」

「へー。そうなんだ。竜の旦那のねぇ……で?」

「異国では、生まれた日を祝うそうなのだ。だから、何かお祝いをと思ってな」

「うん。で、旦那は俺様に何をして欲しい訳?」


どうも要領を得ない答えに、佐助はそう尋ねる。
幸村は、にぱぁっと晴れやかな笑みを浮べると、とんでもないことを言い出した。






「はぁ。何ですと!?」



  *   *   *


と、言う訳で俺は、旦那の頼みでこうしてくそ暑い中任務を果たすために道を急いでいる。

旦那が何を言ったかって言うと・・・

『奥州に行って、政宗殿が望まれているものを探ってきて欲しいのだ』

だった。

まあ、それだけならまだ良い。
問題はその後。

『ああ、今日中に頼むな!!』

と、旦那は、出発するために一歩踏み出した俺に向かってその言葉を言い放ったのだった。

全く、旦那は人使い荒いって。
だいたい、夏バテ気味の俺様に向かって、炎天下のなか走って奥州まで言って調査して来いっとかさ。
普通の人なら死にますよ?
熱中症どころじゃない感じで、死んじゃいますって。


とまあ、そんな文句言ったところで、任務は任務ですから、さっさと終わらせて帰ってやりますがね。


ぶつぶつと文句を言いながら、やっとのことで奥州に着いた。
付いた時にはもう日も暮れていて、あたりはすっかり暗くなっていた。
まあ、忍びやすいこの時間帯は、佐助にとっては好都合であった。


「そんじゃ、御邪魔しますよー」


小声でそう言って、天井裏に忍び込む。
米沢の城は何度も訪れているため、大体の場所は頭に入っている。
政宗の自室も分かっているので、後は見つからないように進むだけ。

が、
突然、床(正しくは天井)から、ドスッという鈍い音がして槍が突き刺さった。
それと同時に、ドスの利いた声も響いた。


「そこで、こそこそと動いている奴。出て来い!!」


佐助には聞き覚えのありまくりな、片倉小十郎の声に、嫌な汗が流れる。
よりにもよって、小十郎に見つかるとは思ってもみなかった。
面倒なことになったと思いながら、佐助は大人しく天井から降りた。


「お前は、猿飛」

「や、やあ。右眼の旦那、奇遇だねえこんなところで会うなんて」

「何の目的で、忍んで居やがった」


佐助の目が泳ぐ。


「は、はははー。旦那ってば、凄いねー。俺様、気配を完全に消してたのに見破るなんて」

「質問に答えろ。幾らお前でも、返答に寄っちゃあ容赦しねぇぜ」


構えた刀が、月明かりにキラリと輝いた。





……旦那、スミマセンが約束は破りますよ。


まだ、命は惜しいんで……
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