はなし

□ポチがポチ
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目立つ格好の人型は大体がヒーローか怪人だ。だから私のような非力な一般人は有名なヒーローか有名人以外には極力近づかないのが正解である。怪人が多く出る荒れた区域ならなおさら。
普段閑静な川沿いを歩いていて、前から来る人影があからさまにマントを靡かせているのに気付くのが遅れたのは失敗だった。その人物が持っているリードの先が気になって仕方なかったものだから、それを引いている本体まで目がいかなかったのだ。
そこそこ細い道のためにすれ違う時は結構近付かなければならず、これだけわんこを眺めさせて貰ったのだから無視するのも感じが悪いだろう。

「こんにちは」
「おう」
「……あの、かわいいこですね」

誘惑に負けた。
主人と思われるマント男の隣をキープし、走っていたのか少し息が荒くなっているワンコの前にしゃがみこんで顔をのぞき込む。小型犬と中型犬の間くらいのワンコは私に興味を持ってくれたらしく、私の膝に前足を乗せて伸び上がっている。かわいい。

「子犬ですか?ちっちゃいですね」
「うーん、まあ、もっと大きくなる種類っちゃそうだな」
「へえー、ミックスですか?」
「多分雑種」
「……曖昧ですね?」
「こないだ拾ったばっかだからなあ」

スキンヘッドマントがのんびりと間延びしたような声で答える。髪型の割には穏やかな性格のようだ、犬を拾うくらいだし、犬が好きな人は犬の前ではいい人だし。
怪人の線は消えたので心持ち警戒心を解きながらワンコを撫で癒されつつ、「この子のお名前なんですか?」と訊いてみる。

「多分ポチ」
「へえ、私のとこにもいるんですよ、ポチ」
「へー、犬?」
「うーん、犬?いい子ですけど」
「ふーん。こいつも犬か微妙だしなあ」

なんとも気の抜けた会話をしながら思う存分ポチをもふもふしてから、電車が止まることもなく怪人警報が鳴り響くこともなく無事帰宅した。

「ただいまー」

ここ数週間ですっかり馴染んだ挨拶を大声で言いながら靴を脱ぎ、微かに存在する玄関を通る。リビングを覗いても、キッチンにもトイレにも誰もいないことに落胆しているとちょうど背後で玄関のドアが開いて「帰った」と我が家のポチが帰宅されたところである。

「おかえりなさい。散歩です?」
「犬じゃねえよ。ちょっと、小銭稼ぎだ」
「わあ、悪そう」

うちのポチはえげつない笑顔を見せながら茶封筒をちらつかせる。深く触れてはならないと本能で感じ取ったので直視も避け、特に話すこともなくふたりでリビングに落ち着きぼんやりとテレビを眺める。結構近くで怪人が出たというニュースがやっていてちょっとヒヤッとしたが特に被害を出す前にさくっと倒されたらしいので安心だ。犬に現を抜かし巻き込まれてしまったらなんというか浮かばれないというか。

「あ、今日この人に会いましたよ。へー、ヒーローなんだ」
「変なこと言ったんじゃねえだろな」
「ポチ自慢してきたんです。この人もポチ飼ってるらしくてー」
「……お前と話してると馬鹿になりそうだ」

結構ひどいことを言われている気がするけれどもその声が柔らかかったのであんまり気にならず、ばたりと倒れたポチに強制的に膝枕にされられたけれどもなんとなくかわいくみえたのでその頭を撫でてみた。その髪はつんつんと上向いている割には柔らかいけれども、本物の犬であるポチには少し劣る。ううんと唸りながら探るように撫で続けたら手を噛まれた。躾の問題かしら。



17.03.08
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