はなし

□息さえしなくてもいいように魚になろう
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「おっまえなあ、狙うの苦手だからってあんだけ近付く必要ねえだろーに」


瓦礫を軽く飛び越えながらこちらに近付いてくるニールは、本当に野生の猫のようだ。ライフルとサブマシンガンを背負っていても重さを感じさせる事なく人を跨ぎ、すれ違いざまに俺の腕を掴んでそのまま出口へと歩いていく。先程の抗争で空いた壁の穴から出てもいいだろうに、わざわざ遠回りをしてドアから帰るらしい。


「問題ない。片付いた」

「俺が援護しなけりゃ時間掛かったろ。ぴょんぴょん動いてんだ、スタミナが保たねぇ」

「保つ」

「いーや、保たないね」


これ以上張り合うのも馬鹿馬鹿しくなり、無言で引かれる
ままに歩を進める。ニールはそれが不満らしく、半歩下がっていた俺の腕を引っ張り真横に並ばせ、「このきかん坊が」とぐしゃりと頭を撫で回した。
抗議のために視線を合わせ睨み付けると、おー怖いと軽く流され、おもむろに拳銃を後ろに向け撃った。同時に振り返り生き残りが倒れるのを確認すると、戦闘中は下ろしていたフードを被り、ビルの外へと出る。
麻痺した鼻で深呼吸し、仕事が終わった事を実感する。前を歩くニールの尾が滑らかに波を作っていた。





報告はしなくとも情報が入っているだろうから、とそのまま部屋へ戻るつもりだったが、「打ち上げでもしねぇと生きていけん!」とニールが宣言した事により地上にのぼり、パブまで文字通り引きずられて行った。
店に入ればテキパキと注文を済ませ、カウンター近くの椅子に座る頃には冷えたギネスとミルクが豪快に届けられ、ニールが気持ち良さそうに煽るのを見てからミルクに口をつけた。


「生活費がかっつかつだし食ったらMs.スメラギんとこ行くぞー」

「…了解」


愛想の良い店員がパスタとフライドポテトを放るように置き、「さてさて」と抱えたジョッキのひとつをこちらに渡すとそのうちのひとつに口を付けなが
ら俺の隣りに腰を下ろした。これで話を聞かせろ、と言いたいらしい。


「ぷはーっ!やっぱり地上で飲むビールは違うわ、さいっこう!」

「おいおい、仕事中にんな堂々と飲んでいいのかぁ?」

「今日はアガリだからいいのよ、ほら、本職の足しになる話してちょうだいね」


機嫌のいいクリスティナはポケットからキャラメルやキャンディーを取り出して俺の前にゴロゴロと積み重ね、ロックオンが嬉しそうに「仕方ねぇなあ」と先程介入した抗争の内事情を説明する。よくあるようなないようなくだらない内容だが情報屋にとっては有力な情報らしく真剣に聞いているのを横目にパスタに口をつけ、馴染みの店だからと露出された尻尾を観察して時間を潰した。ようやく話が終わる頃には、ニールのパスタはすっかり冷たくなっていたが旨そうに啜っていた。





「はーあ、つっかれたなぁ!」


勢い良く飛び込んだ衝撃はベッドに吸収されたようで、ニールが派手に寝転んだ影響は埃が舞ったくらいだった。光に反射する埃に毎回掃除しなければ、と思うが実行にまではいたらない。寝に帰るだけたので結局面倒になって寝てしまう。
マフラーと銃を入れたままのベルトをソファに投げ、ニールの
隣りに横になった。ニールの手が頭を撫でる。仕返しのつもりで闇雲に伸ばした手のひらは鼻に当たったらしく、吹き出すのを直に感じ、気に食わなくて耳を掴んで引っ張た。触れた耳が温かかったのでのし掛かって寝る体勢に入る。余計に笑われた気がするが眠いので無視した。




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