はなし

□メロウ・メロウ・ブルー
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「美鶴ー。飽きた」


ふくらはぎを足先でつつきながら小声でアピールするも、美鶴はこちらをちらりと見たきりまた手元の本に視線を戻す。しかも私のスニーカーをじりじりと踏みつけるおまけ付きだ。いや、だって美鶴が悪いよね。文庫本の100円コーナーだけで一時間半とか飽きるよね、なのに一転集中攻撃とかひどいよね。踏まれた左足をそうっとずらして避難し、みっちり並ぶ背表紙を流し見るも興味がでない。どうせ邪魔になるだろうからと先に古着は見てしまったし、うっかり上着も買ってしまったし、マンガもCDもざっと見てきた。正直今すぐ帰って部屋でマンガとともに転がりたい気分だ。
なんで少
女マンガと文庫の棚はやたら静かなんだろう。ちょっと離れたところで本を物色しているおじさんが気になって文句もあまり言えない、というかなんかこう、しゃべれる空気ではない。仕方なしに美鶴が脇に抱えていた四冊を抜いて物色してみることにした。
一冊目、宗教系の新書。二冊目、哲学っぽい新書。三冊目、なんかよく分からない新書。うわあ……うわあ真面目。うへえ、と小さく感想を言えばまた足を踏まれた。いやあ、スニーカーで来てよかった。ショートブーツだったら絶対靴跡残ったよこれ。


「暇お腹空いた足痛い重い帰りマック奢れ」

「奢らねえよ。おばさん限定ものばっかで高くつくだろ」

「今食わなきゃあと食えないんだよ!」

「ハッ」

「食べ盛りが見下したように笑うんじゃありません!私のポテトほとんど食うくせに!」

「論点がずれましたねおばさん」

「敬語むかつく!」

「はいはい。これも持っててくれ、おばさんでも読めそうなやつ見つけた」



無理矢理持たされた四冊目の表紙が可愛らしいおじさんなもんで気を取られていたら、美鶴は隣の棚をまた物色しはじめていた。私がこんなに訴えているのに美鶴の心には響かないのね。
渡された本をぱらぱ
ら捲ってみるとどうやら短編集らしく、数ページで完結してるものばかりだ。チラ見で美鶴を確認する。あと一時間は帰れねぇんじゃねえのこれってぐらい本棚にべったりで、まだまだ帰れそうにない。出来るだけ悲愴感漂うため息を吐いて文庫本を開いた。


「………」

「………」

「……美鶴、いつの間に私の好み覚えたんよ」

「一緒にドラマとか見てれば嫌でも分かるだろ」

「そんなもんなのか…いや美鶴実は私の事結構好きだろう」

「そうか、その作家そんなに気に入ったのか」

「うん面白い。だから帰ってゆっくり読みたいな!」


なんせ足が棒のようなので。
それにここじゃあいちいち感想を言うのだって後ろのおじさんの迷惑になったら嫌じゃない。私の偏った意見なんて聞いたあとにその本読むのなんか嫌じゃない。とにかく帰って美鶴膝枕の刑決定ね。勝手に心の中で決めただけだけど無理くり実行してやる。
黙々と物色していた美鶴もさすがに私が鬱陶しくなったらしく、適当に数冊引き抜くと「買ってくるから絵本コーナーにでも行ってろ」と本を掴んでレジに足を向けた。何冊買っても安心感、百円均一コーナー万歳!
言われたとおりに絵本コーナーにいくつもりなんて更
々ないので、確実に見つけてもらえる出入り口の自販機でサイダーを二本買って左手のを軽く振って待つ。一人ロシアンルーレットを企てながら、三割雲で覆われた空を眺めた。平和だなあ。







メロウ・メロウ・ブルー



11.03.24

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