はなし2

□閑話
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「ライル?」


刹那達兄弟はいつも、一目見ただけで俺たち双子の名前を間違えずに呼んだ。今も数年ぶりに会うというのに、玄関のドアの前に座り込んだ俺の名前をハッキリと発音した。


「よ、久し振り」

「どうした」

「んー?会いたくなった」


周りからの評判の良い笑顔を貼り付けて顔をあげると、数年ぶりに見る刹那は眉間に皺を寄せていてつい「うわーぁ」と言ってしまった。体はデカくなったし幼いような空気も消えているくせにムッとする表情は笑えるくらいに変わってなくて、妙に安堵する。


「…入れない」

「あーはいはい、っと」


長く座り込んでいたせいで重い腰を上げ、どうぞと示すように手をドアに向ける。刹那はうさん臭そうに俺を見ながら鍵を取り出し、ガチャリとひねるとドアを開いて一歩引いた。


「入れ」

「……あ、?」

「どうした」

「いや、なんか、呆気に取られたっつうか…」

「そうか」


いやそうかて。
帰れとか失せろとか、とにかく拒否の言葉が出て来るとばかり思っていたのに、なんつうか、呆気ない。
拍子脱けした俺をどうするでもなく、さらに驚いたことに刹那に腕を引かれるようにして彼の自宅へと足を踏み入れた。



「お邪魔しまーす…。
お、綺麗にしてんな」


几帳面はまだまだ健在なようで、玄関も上げられたリビングもこざっぱりとしている。残念なことに、装飾品がガンダムに限られているところも懐かしい。
以前遊びに来ていた時と同じ席にどっかと腰を下ろして周りを見渡せば、グラスに麦茶を注いでいる刹那が眼に入った(この家では年中麦茶を飲む決まりでもあるらしい)。


「グラハムさんは出かけてんのか?」

「いや」

「あ、まだ寝てた?」

「いない。ニールの所で世話になっているらしい」

「へー。……へっ!?」


何気なく尋ねた質問で、これほどまでに驚かされるとは予想していなかった。いや、だって、ねえ?
ニールっつったら一人暮らししてる双子の兄さん以外思い当たらないし、確かに頻繁に連絡をしている訳ではないといえ多少はやり取りがあるのだ。はじめて聞いたぞそんなはなし。

ぐらぐらする思考を落ち着かせようと麦茶を煽ると、「恋人になれた、と先日電話で言っていた」ととどめをさされて噴出した。


「おま、ちょ、えぇ!?」


兄さんにそんな性癖があったなんて、てことは遺伝子の関係で俺もか?まさかいや、でも…と頭を抱えて考えていると、いつでも冷静な刹那がお茶菓子をぽんぽん置き始めた。主に芋の。


「兄から。大量に貰った」

「…あの二人の食生活が不安だよ…」


予想通りグラハムさんお手製の懐かしい菓子は、なんだかほろ苦い味がした。いや、甘過ぎる程甘いのだが。

ぱちりと目が合った刹那に男らしく「泊まるか?」と端的にきかれ、なんだかときめきつつ頷いてからなんでここに来たんだっけ?とちょっと我に帰った。
まぁ、いいか。



10.01.14


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