はなし2

□愛のある背骨
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男は女、国、家族の為に死ぬことの出来る生き物だ。戦争しかり、日常においてもそうであろうとする。
女は自分のために死ぬべきだ。愛されている己を守るために戦って己の尽くす者の為に死ぬのがなにより美しい。死なずに男の腕の中で囲われているのが望ましくはあるが。
さて、と煙を子どもの顔に吹き付けてやり考える。ではこの弟子は、何を求めて俺の上に乗っているのか。


「師匠は俺を弟子扱いしてるんですか。子ども扱いですか。女扱いですか」

「眠ぃ。退け」

「答えてください」
ぎりぎりと腹に置かれた手に力がこもっている。無意識だろう。体は前後に揺れているくせにその手はしっかりと俺を押さえつけていた。マドレーヌごときでここまで酔うか。完全に目が据わっている。


「胸を揉むわ尻を揉むわなんなんですか。あれだけ愛人作っといて足りないとか、もうそれ病気ですよ。神父云々の前に人間としてどうなんです」

「お前に言われる筋合いはねえなあ」


びくりと揺れる肩がコンプレックスを物語っていて、人間という単語に極端に敏感なとってもデリケートな弟子を無視して上体を起こす。転がった拍子に頭でも打ったのか呻き声が上がったが構わずのし掛かって手を押さえつける。少女にあるまじき憎くてたまらないという表情と唸り声に良い意味で背筋がぞわりとするが、いびる間も惜しいほど眠い。壁に体をもたれかけ、無理矢理抱き上げたアレンが口を開くのを見計らって唇をかぶせ、噛まれないよう顎を固定する。


「んんん!んー!」

「うるせえんだよ、ねだるなら何が欲しいかはっきり言いやがれ」


舌を絡ませながら引き寄せ、呼吸を飲み込むように覆い続ける。
酸欠で大人しくなった頃を見計らい、抱え直してそのままベッドに転がった。きつめに抱きしめれば微かな抵抗もなくなる。
ひとつの感情だけで、ひとつの理由だけで人に接せられるほどに俺は一途ではない。人間なんてそんなものだろう。明らかに飢えている弟子にこれだけ譲歩してやっているのだから、それだけで満足してほしいものだ。そうもいかないのが人間なのだが。
さて、と思う。
俺はこの子供のためになら残念ながら死ぬことが出来る。信念だとか、情だとか、そういった建前を取っ払って残った理由にアレンが求めるものがあるのだろう。
言葉は時間が経てば嘘にもなる。女は嘘でも言葉を欲しがるが、子供には行動で示すのが正確に伝わるだろうと信じているが定かではない。
さて、考えるのも飽きた。愛でるのなら愛でておけばいい。どの愛かは子供の判断に任せるしかない。
ともかく反応は返ってきている。上着を遠慮もなく皺だらけになるほど握られ、多少なりとも愛されているのを実感しつつやたらあたたかい身体を息がかかるほど引き寄せた。



11.12.07


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