はなし3

□はじまり
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「嫌ですっ人間の手なんて食べたくない〜!」

「…そんな事言ってると僕が君を咬み殺すよ」

「それもやだ!」


雲雀さんは容赦なく、ぐいぐいと白い腕を私の口に押しつけてくる。
私はそれをなるべく見なくてすむようにと固く目を瞑ったままで押し退けようと腕を突っ張った。



大体、黒フードスッポリなこの人が現れてから廊下に果てはないわ兎人間を見るわろくな事がない。この人といる限り危険な目にあい続けるんじゃないだろうか。

それに目付き怖いし!

物言いが物騒だし…!


自分の思考に余計に怖くなった私は、一瞬腕から力が抜けてしまった。

その瞬間を見計らって雲雀さんは私の口に白い腕を突っ込んだ。


「んぐぅっ?!」

「ほら、サッサと飲み込んで」



私は頭を横にブンブン振って抵抗するが、雲雀さんに肩と鼻を押さえ付けられてしまっていて逃げられない。


息が出来なくて苦しくて、私は口の異物を退けようとして―――





ごくん。


―のんじゃ―った。



指を。

…しかも結構おいしい…?




脳みそが事実に追いつかないんだろうか。足元がぐらぐらと揺れている気がする。まぁ、確かに気を失ったほうが楽かな…。


ふっと目の前が暗くなったから、とうとう意識を飛ばした…はずなのだが。

(…あれ、意識ある?)



「……雲雀さーん…?」

「なんだい?」


呼んでみると直ぐ近くから返事が聞こえた。しかも動揺した様子はまったくない。周りが急に暗くなった訳ではなさそうだ。

でも目を開けているはずなのに何も見えない。


………あれー?



状況が飲み込めなくておろおろしていると、さらに恐ろしい事に気付いてしまった。

私、服着てない…?!


「どうかしたの」


真上から声が聞こえたと思うと、パッと明るくなって雲雀さんの巨大な仏頂面が覗いた。


「きっ…きぁあ!?」

「何、アリス」

「ちょ、目瞑って下さい!ていうか後ろ向いて下さいーっ!」

「僕らのアリス、君が望むなら」



もったいぶった言い回しでそう告げると、雲雀さんは鈴をチリンと鳴らしつつ後ろを向く。

私は急いで周りを見渡した。






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