はなし3

□影のないあなた
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彼女はスリザリンであることを否定してやりたくなるほどに馬鹿だ。
馬鹿なのに、人の感情にばかり聡いから、不思議と人望があった。学年も関係なく、寮さえ無視して彼女の交流は広くあった。最高学年の癖に新入生まで対等に扱う始末で、そのくせ人の名前は覚えない。
僕は彼女が嫌いだった。


「何があったんですか」


その彼女が人目につかない木陰で泣いている。
いくら苦手でも、この状況で避けるほど薄情になったつもりもない。
大して大きくもない木の幹に寄りかかって泣く先輩にひざまずいて声を掛ければ、葉の間から彼女がこちらを見たのが窺えた。


「……見つかっちゃった」

誰もいないところを探したつもりなのに、と笑う彼女には枝葉が邪魔で近付けない。彼女の選択は正しかったのだろうが、同じように人目を避けるものがここに来てしまうことは想定していなかったのだろう。僕自身も彼女と会ってしまったことよりもここに人が居るということが驚きだった。


「ごめんね、邪魔しちゃったかな。もうちょっとしたら帰るから」


僕が箒とスニッチを持っているのを指してそう言ったのだろうけれど、「構いませんよ」と枝葉の分距離を空けて隣に座る。まあ、構わない訳ではないけれど後々何かあっても困る。彼女とてスリザリンで、下手なことをしてしまえば何が返ってくるのか分からないのだ。彼女自身が望まなくとも、家同士だとか、兄弟だとか。気を使うのが日常なので面倒ではない。

僕は彼女が嫌いなので、気の利いた話題を作ることも出来ない。
ここで天気の話をするのも無意味だ。無理に喋る気も起きなくて、スニッチと箒をしっかりとしまい本を開いた。練習なんてしようと思えばいつでもできるものだ。


「理由とか、訊かないの」

「必要とあらば。言いたくないなら構いませんし、僕は本を読むのに忙しいので、独り言を聞くつもりもありませんから」
「……かっこいいなぁ」

「失礼ですがおっしゃっている意味がわかりません」

「ううん、媚びないんだと思って」


案外辛辣な言葉に思わず彼女へ目を向けるが、膝を抱えた彼女が緩く首を振ったので視線を文字列へと戻す。


「ねえ、じゃあさ、関係ない話しよう。付き合ってもらえないかな」

「読書に支障がない程度なら」

「じゃあしりとりは?」

「……何でもいいんですね」

「うん。そう」


ふふふ、と笑う彼女に確かに同じ系統を感じて、ページを捲りながら話題を考える。しりとりは気乗りしない。




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