はなし3

□天国みたいな心臓
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行けるところまで行ってみようかと言い出したのはロックオンで、道の先を眺めて、ひとつうなずいた。今日は買い物で疲れたからいいだろうと宿をとり、支度を済ませてしまい早朝に歩き出した。起伏のある道は先が見えても距離感が掴めない。急ぐこともないだろうと、道を踏み締めて二人で横に並びゆっくり歩く。日が出たばかりの時間は道路に人気はあまり無い。時折、鳥が鳴くのが聞こえるばかりで道は静まり返っている。


「刹那、寒くないか?上着あるぞ」


俺よりも余程寒そうに見える薄着のロックオンにそう言われ、肌寒かったが首を横に振った。いいから着ておけ、と渡された上着を突き返すことも出来ずに腕を通す。
ロックオンが面白がるように笑う。とにかく睨むと、ごめんごめんと意味のない謝罪がその口から零れた。
ロックオンが一度振り向き、あんなに宿が遠いと囃す。

舗装された道は歩きやすい。走るでもなくただ真っ直ぐ歩く行為は、単調でものを考えるのに向いているのかもしれない、と思う。いつもは忙しい大人が隣でただ黙々と歩いているからそんな印象を抱くのかもしれない。日は上り、喧騒が周りに溢れる。すれ違う人を気遣ってかロックオンは後ろを歩いた。道は広くなり歩道もしっかりしているから、足腰が痛むことはなさそうだった。
食事を採るために軽食を売っている店に入り、大して休まずにまた道に戻る。動き通しの体に当たる日光は暑いくらいで上着は脱いで自分の荷物に入れた。

昼を過ぎれば人混みが幾分陽気になり、声やら足音やらが軽く聞こえるようで、吊られてロックオンも口が軽くなるようだった。あの店の店員が可愛かっただとか、今すれ違った三人は兄弟だろうかだとか、とりとめのないことをこちらに向かって話していた。同意したり否定しながら歩くうち、昼食を採った店すらも緩やかな曲がり道で全く見えなくなる。後ろを向いたロックオンがそれを知らせた。
道幅は広がり、人の往来もさらに増えた。しっかりとした歩道の側に茂る草にゴミと虫が共存している。見たことない蝶だなぁ、と暢気な声がまた隣から聞こえる。うなじがじりじりと焼けるようで、空を見た。雲はあまりない。暑くないだろうかと隣を見れば、暑いなと目を向けられて笑ってまた歩いた。




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