はなし3

□だってこれは真昼に見るゆめ
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五時の放送の音が遠く聴こえて、道理で眠いはずだ、と諦め半分で目を閉じる。
もうすっかり夏だと叔母がぼやくとおりに外はまだ明るい。もう少し暗くならないと、窓を閉める踏ん切りがつかずにエアコンは付けられないだろう。

今朝は亘とその母親に連れられて遊園地に行くためにかなり早く起きたのだ。込む前には帰ろうと、開園と同時に入って遊び倒したために結構疲れた。一緒にこの過酷な日程を過ごしたアヤは帰りの車から現在に至るまで気持ち良さそうに寝ていて、叔母も起こすのが可哀想だと言ってソファに寝かしてしまった。
アヤの安心しきったような寝顔を眺めるうちに瞼が重くなるが、夕食まではあと一時間ほどだ。そう思って構えるほどに眠気に抗いがたくなるのだから、不思議というか、なんというか、とにかく今寝てしまえば一番心地いいはずなのだ。
瞼を閉じてしまえば、瞬きも億劫になってそのままキッチンからの物音に耳を澄ませる。たんたんたんと何かを切る音がしていて、七夕素麺にすると言っていたから野菜でも刻んでいるんだろうかと当たりを付ける。

水が流れる音と、美鶴、と叔母が呼ぶ声がする。意識はあるけれど返事をするのは面倒で、黙っていると叔母の足音が近づいてきた。


「美鶴ー?……お、寝てる。珍しい」


ソファの足側がぐっと低くなる感覚がしたから、叔母が座ったのだろう。夕飯の準備は終わったのだろうか。そのわりには起こそうとする気配がないけれど。


「……寝てるとそっくりな兄妹だなー、起きてるとあんなに違うのに。ふふ」


独り言多いな。
冷静にそんなことを考えるが、表情などには出なかったらしい。「仕方ない、もう少し寝かしてやろう」とまた独り言が聴こえて、立ち上がる気配がする。叔母が屈んだのか、瞼に映っていた陽が陰った。
右頬が一瞬温かくなり、「唇じゃなきゃ犯罪にならない、よね、うん」とまた独り言が、今度はすぐそばから聞こえた。いや、寝てるときは駄目だろう、と思うが、起きている時だったら全力で逃げたろうから叔母の判断は正しい気がしてきた。いや、嫌ではないのだけれど、照れ臭いだろう。アヤもいるし、俺を何歳だと思っているんだ。




「お、なんか顔険しくなってきたか?」


からかうような独り言に脱力して、本格的に寝てしまおうと気を抜いた。時間なんて知るか、全部叔母に任せてしまおう。
寝てろ寝てろ、という気の抜けた呼びかけに呆れつつ、髪をすく感触に安心して、意識が夢に飛ぶのに任せた。

悪いことは起きないと、変に確信しながら。



13.07.07
HappyBirthday!


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