はなし3

□幸せなら
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グラハムという同居人も増えたことだし、と、身辺整理ではないが荷物を片付けてみることにする。
彼が持ち込んだ便利すぎて使いどころの分からない家電と微妙に被ったりしていて我が家は確実に狭まっている。これは切実な問題なのだ。

映画の趣味は面白いほど被らないためテレビ周りは問題なし。本は多少被ったが元々手元に留める性質ではない、せっかくの機会だからと数冊を残して売ることにする。これで大分棚が空いた。

さて、台所は問題が多い。なにしろ世に出回る便利グッズ自体が多すぎる。
たこ焼き器は案の定お互いに持ち寄ったので、愛用器は刹那に押し付けてやろう。
ライルがいるならひとりでタコパすることにもなるまい。
炊飯器は彼が妙にこだわるので使っていたやつは掃除してフリーマーケットにでも出そう。本もそちらの方が楽しいかもしれない。
ならもう少し思い切ってまとめてもいいだろう。休日の予定が見えてきて、選別する手は分かりやすくスピードが上がった。買ったきり使わなかった某民俗風の鍋、しゃぶしゃぶ用の鍋、レンジ用の圧力鍋、ホットミルク用の小さな鍋……鍋がやたら多い、どうした、俺。

大きさ順にヤカンを並べ電気ケトルと併用する機会があるだろうかと悩み、中くらいのものひとつを残してまとめて売ることにする。
これで気持ち広くなったかなあ、と満足して胡座をかいたまま背を反らせば、件の同居人がちょうど帰ったようでドア付近がガサガサいっていた。ついでに首を曲げて音を鳴らせば、逆さまのままの視界をグラハムが度合いを占めていく。おかえり、と言いかけたところを「ただいま!」と高らかに宣言したグラハムが顔を近付けてきて額に唇を押しつけた。驚きのあまりそのまま後ろに倒れるが、倒れる要因となった彼は助けようともせず声に出して笑いながらこちらを見下ろしていた。恨めしい気持ちを込めてその顔を睨み付ける。顔が、というか額が熱い。
「無事かい?それにしてもこの荷物は?」


文句を言っても睦言になって帰ってくるのは分かっているから、起き上がって「ちょっと気分転換に整理してたんだ」と説明して箱を重ねる。売るために積んだ山はなかなか高くなった。
不要品として積んだものを眺めたグラハムの眉間が険しくなるのを見つけて、慌てて口を開いた。




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