はなし3

□疑似メルヘン
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地図を見るまでもなかった。森に近づくほど青白い綺麗な細い線が延びていて、よく見ると窓や外階段や別塔がくっついている。今まで見ていた街の建物とはあまりに違う、綺麗な華奢な塔が見えてきた。
ニッキーを目についた道に入らせて塔を真っ直ぐに目指す。塔はとても高いみたいで、ニッキーに障害物を避けてもらい見上げながら走るけれどなかなか近付かない。もう首が痛くなってきた。


「ニッキー、私へこたれそうだよ……あ、痛い。痛いからオカメ舌で殴らないで」


首を上げていたお陰で無防備な顎をびしばし下から殴り喝を入れられ、渋々塔を見つめながら全力で走った。それにしても気の強いカメレオンである。飼い主の私には似ないで。
やっと塔に着くと思っていたより細い造りで、ニッキーでぐるりと回って見たけれど入り口は見つからない。

おかしいな、入り口あるって聞いてたはずだけどな。
とりあえず真っ当に入るのは諦めて腰に付けていた鞭を取り、オカメに足掛かりになってもらいながら手近な出窓に飛び乗る。ニッキーは足場扱いされた事を非難するように鳴いていたけど飽きたのかすぐに草を食べはじめる。まあ、放って置いても大丈夫だろう。こんな変なの盗むようなやついないだろうし、呼べば来るだろうし。
オカメの舌と鞭を頼りに外階段まで登り、そこから扉の鍵が開いているのを確認して忍び込んだ。いや、住人に見つかったら困るもの。立派な不法侵入だもの。
鞭を握ったままオカメを肩に乗せて、吹き抜けのまわりにぐるりと階段がくっついているような作りの内部を見渡す。階段から階段に移る作りらしい。変わっている。耳を澄ましても風の音しか聞こえなくて、とりあえずは慎重に上を目指すことにした。

階段の途中にぽつぽつと点在する扉を開いてまわっても、ヒトにも動物にも会わない。あまりにも気配がないので調子に乗って階段を駈け上ったら足場が崩れたりで肝が冷えた。鞭構えててほんと良かった。




「このまま上ってたらさ、てっぺんにお姫様でも居そうだよね」

「………」

「魔女かなんか倒して表彰されて、幸せに……結婚できねえな私女だし。でも閉じ込められてる王子助けるのは嫌だなあ、王子には助けてもらいたいじゃない」

「……クアー」

「オカメ欠伸はやめてー」


そんなことをもんもんと考えているうちてっぺんに着いたようで、階段の終わりに両開きの立派な扉が西陽を浴びてきらきら光っていた。ふと階段の下を見ると、底が真っ暗で何も見えない。いくら高い塔だといっても中の壁は明るい色だし窓もあるのだ。異常に暗い。もしかしたら今は外から見たら「消えて」いるのだろうか。


「……たくましく生きろよ、ニッキー。あ、痛い。痛いから舌で殴らないで」


とにもかくにもきっと進むしかないのだろう。目の前の扉に手をかけて力を込める。あれ、固い。思いっきり体重をかけて押すと、やっとゆっくり開きはじめたのでそのまま肩でぐいぐい押しながら足を進めた。やる気のないオカメは私の頭に移動している。地味に重い。




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