はなし2

□影踏みごっこ
1ページ/3ページ

※三郎が人外パロ






私の耳か脳は少しおかしいようで、ヒトとは違う音が時折聞こえる。
歩く速度で近付く鈴の音、くすくす笑う女の人の声、下世話な耳打ちをする男性の声。罵ったのは誰かと振り向いても人がいないのなどは当たり前で、見えないくせにくぐもった音が止むことはない。
両親や友人は気のせいだと言って信じてくれないけれど、私は生き生きとした音を否定なんて出来なくて静かに耳をかたむける。まぁ、そのせいで電波とかたまに言われるけれど、慣れればなんとでもなるものだ。



学校が休みだからと惰眠を貪り、お昼きっかりに起きてとりあえず洗面所に行く間も、「こうか、いやこうでもない…」とか悩んでいるような声が私に付きまとっている。なんだか深刻な声だなあとか思いながら顔をばしゃばしゃ洗ってグワッと顔を上げて鏡をみると、

…目の前の鏡には私の顔がふたつ、片方は細目で覗き込んでいて、片方は目を見開いてこちらを見ていた。


「まぁあああ!」

「ぎゃあああ!」


耳元で優雅な悲鳴が上がるのと同時に片方の顔は消えて、間抜けと呼ぶに相応しい普段の私だけが鏡に映る。…「うわあ目が合った」とか呟く声が聞こえているから安心出来ないけれど。


「あぁ不覚だ、そんな力なさそうだしなかなか難しそうな顔だからって近付くもんじゃないな」


心底悔しそうな声から離れようとずりずり後退りすれば、とんと肩に衝撃が走る。まぁ推測できるようにそこには何もなくて、またもや悲鳴を上げて腕を振りまくればバランスなんざとれないわけで。
足首が有り得ない角度に捻じ曲がって倒れかけたところ、腕をぐいと引かれて体が支えられた。やっぱり透明な何かに。
ひっと引きつるような声が喉から出ればくくっと耳元で笑われ、「見えてないくせに逃げたら、危ないだろう?なあ」と明らかに私へと向けた問いが発せられた。声はやけに楽しそうだ、私は怖くてたまらないけども!




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ