はなし2
□なんでも
1ページ/2ページ
私と刹那は歳の離れた兄弟で、両親とも刹那を育てるつもりがないと聞いてすぐに引き取った。この子は私の子じゃないのよ、どうして私が育てなきゃいけないの。通算三人目の母の言葉には賛同しかねるが、あの環境に子どもを放り出していては殺してしまう、その点では母が育児放棄したのは正しいと言えよう。
刹那が中学にあがるのに合わせて親からの仕送りも断り、自分で選んだ街の自分で選んだアパートに住み始めた。隣に住んでいたのが、ディランディ兄弟だった。あの子は、刹那は文句を言わない子どもだったが、ニールはそれを拾うのがとても上手くて、私まで助けられたものだ。
ライルはライルで刹那よりも弟らしくて放って置けなくて、ディランディ兄弟が就職するまでほとんど四人家族のように過ごした。
「あれから変わりないかい、刹那」
「ライルが家に住み込んでいる」
「それは大層な変化だな」
「家事が楽になった」
「ふむ、それはよかった。そうだ、新作のパスタに自信があるんだ。週末に作りに帰ろうと思うんだが」
「空いている。大丈夫だ」
「ではニールも連れていこう。刹那に会いたがっていたからね」
週末恒例となっている近状報告の電話をしながらちらりとニールに目を向けると、気まずそうな表情で目を反らされた。微笑ましくなり小さく笑うと、綺麗な放物線を描いてスリッパが飛んでくる。避けようと体を傾けた所に更に第二撃が発射され、見事顔面に当たり「ぐふっ」と声を漏らしてしまう。聞こえていただろうに刹那は特に気にせず話を進める。
「ライルも休みだ、四人分頼む。そっちは変わりないか」
「よくぞ訊いてくれた!実はな刹那、」
「あ、ライルが風呂から上がった。切っていいか」
「何と!兄よりも光熱費を優先するのか!」
「上がったら掛け直す」
「刹那……!」
あっさりと切られた電話に、真っ白に燃え尽きたように項垂れる。ニールに癒しを求めて目配せすればザマぁみろ、と目で語られて、余計に心をえぐられたかのような心地になる。ニールは私が子機を切るのをじぃっと見計らってから、苦々しげに口を開いた。
「なあ、やっぱ帰んなきゃダメか?別に俺がいかなくてもパスタ作れるだろ」
「パスタが上手く仕上がるコツは愛情なのだよ、ニール。基本人数が多ければ多いほど旨くなる」
「基本かよ」
「それにライルも家にいるそうだ。気合いを入れなくてはな!」
「いやだあああ余計に行きたくねぇぇぇ」
クッションを抱えて丸くなる様子は実に微笑ましいのだが、やはりうやむやなままにしておくのは性分ではないのだ。実の兄弟に後ろめたい思いをするのはよろしくない、なのでニールもライルに言うべきことがあるだろう。いい機会だ、腹を割って話して呑み明かせばいいのだ。兄弟なのだから、なにも固くならなくていいのだ。
「あれ、つうかなんでライル居んだよ」
「バイト先が近いと聞いたことがある。そのまま住み込んだらしいな」
「お前さんみたいなことを、まさかライルがなぁ……」
「よもやライルも押し掛け女房タイプだったとはなぁ……」
「いや違うだろ」
役割を中途半端に終えた電話を片手でいじりながら、当日は何を買って向かおうか頭を巡らす。白ワインとビールと牛乳と、肴は刹那に任せたほうがいいだろう。まあ、なにか足りなければまたコンビニででも買い足せばいい。
→