はなし3
□まともでいられるはずがなかったのだ
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現世で生きられるのはせいぜい十二、三年だ。その年になると、事故だとか病気だとかで死んだことになりまた赤ん坊から繰り返す。気分が乗らなければ別に現世に行かなくてもいい、魔王としてこちらにいればいい。
千年ともなると、これを繰り返すのにも飽きてくる。
ただ眺めるだけの千年よりはましだが、やはり、これは罰なのだろうと実感しながら繰り返す。
何度も繰り返した。もう辛くはない。そのはずだった。
「、なんで、死んだの」
前回現世で死んでから、もう三年経った。
それなのに彼女は相も変わらず泣いている。
むしろ日常生活は以前よりしっかりと送っているくせ、ふとした拍子に彼女は泣いた。料理をしていて、洗濯をしていて、ベッドに横たわって、泣いていた。
「バカだろ、あんた」
「それくらい知ってるよ」
夢に押し掛けても泣いている。
疲れそうだ、と思うが、止めてやれない。頭を撫でても文句も言わない。笑いもしない。余計に辛そうにする。これでは、見ているこちらまで辛くなる。
頭を抱き抱えるようにするが、腕は口元と涙を押さえたままだ。ただ体をこちらに傾ける。腕に力を込め顔を寄せた。温かい、懐かしい匂いがする。それでも夢にすぎない。生きて彼女に触れることはもうない。それがこんなにも悲しくなるとは思わなかった。
腕に力を込める。彼女は肩を揺らして泣き続けた。
「私が、悪いの。母親になれなかった。姉にも。だって、知らなかったの。あの子の求めるもの、分からなかった」
「俺はあの家が好きだった」
「でも、駄目よ。私があの子に頼ってたの。勝手に生き甲斐にしてたの。きっと、重かったんだ」
「嬉しかったよ。今までそんな人居なかったから」
「ならどうして今居ないの。私は、どう生きればいいの」
「ごめん」
「謝らないで、帰ってきて。それだけでいいから。居るだけでいいから。
私を、好きになってくれなくていいから」
「ごめん」
「謝らないで、悲しくなるから。……もう一回、会いたい」
会えないことはないのだ。
もう一度、俺がこちらで生きればいい。ただ、彼女や前の人生で関わった人達の記憶から「美鶴」の記憶がなくなるだけで。
そうすれば彼女はもう泣かなくなるだろう。叔母のためにもそうするべきだ。
だが、したくなかった。
彼女以外の人のもとに行きたくない。何より、彼女に忘れられたくない。
忘れられたくないという思いだけで叔母がこんなにも苦しんでいるというのに。
あと少しで、彼女の背を越すはずだった。手のひらだけならもう越している。彼女の小さい手を取り、目を合わせた。
「本当、あんたはバカだ」
「……バカバカ言わないでよ」
あの頃と同じ馬鹿馬鹿しい会話に涙が滲む。本当に、お互いバカだ。
まともでいられるはずがなかったのだ
13.01.09