はなし

□ふわり、あまいかおり
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一体どういう仕組みなんだか。



はぁ、と小さく溜め息をついてそう思った。

アレルヤと話す時は奴の視覚を利用していたはずだが、『こちら』に甘い匂いがする、てぇことはここはすっかり別の『何処か』だとでもいうのだろうか。

あ、やっぱやべぇのかな。











人間はどんなに長い夢を見たと思っても、実際には脳内で造るのはほんの2、3秒あれば十分らしい。
走馬燈とやらもおそらくはそんなシンピテキな原理で振り返るのだろう。

今の俺のこの思考も2、3秒あれば十分振り返られるような噂のあの猶予らしい。どうせろくな人生(…あれ、人生?)だとは言えそうもねえが。

まあこの感じだと終わりか、と短いがなかなか濃い人生を振り返っていると、微かに甘い匂いが漂ってきたのだ。


香水、とも違うし、アレルヤからもキュリオスからもこんないい匂いがする訳ない。



 何処かで嗅いだな。

 何処でだっけか。

 馴染みのある、





ちらりとクネクネした茶髪が目の端に映った気がした。


そうか、あいつの匂いだったっけか。

…そう結論づける頃にはもう奴の事しか頭に出てこないような状態になってしまった。





















ああもう。貴重な時間だろうにロックオンにどんどんと埋められていくばかりだ。さっきまでは赤とアレルヤが占めていたのに、ああ俺馬鹿じゃねぇの。

しかも最期に奴の事を考えながら死ぬので満足する俺って気色悪りぃ。


うなじに噛み付いた時にあいつの咎めるような声と一緒に染みたのを思い出す。

見たまんまというかなんというか、くっついてくるのは俺からよりもあいつからのが断然多かった。

キスするのは俺からばかりで、余裕を奪い合って大抵は俺が勝った。悔しいと思わせる余裕すら奪ってやった。

あいつの髪とか声とかが好きだった。

へらへら笑って真っ黒いもんを誤魔化すのが滑稽で同族の匂いがして落ち着いた。

そういう関係になってまだ日が浅くともくっちゃべる暇があるなら、と言わんばかりに行為の回数が多かった。話す必要がない気がした。


…まぶたが、おもい。







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