はなし

□ただの春
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あ、と零れるような主の声に足を止めれば、その指が庭先の木に向けられる。その先を追えば一輪の梅を見つけて、もうそんな時期なのかと驚いた。この身は一年が飛ぶように過ぎていく。
立ち止まったままの主の隣で同じ花を眺める。冷えてはいないだろうかと手に触れて、振り返る彼女が照れたように笑いながら身を寄せた、五度目の冬、もうすぐ春がくるくらいの。



16.10.26
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