短編小説

□だから僕は。
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「沙織。おはよ……って、どうしたの?目、真っ赤だよ?」

「茜……。……今日学校終わったら茜んち行っていい……?」



一晩中泣いたのであろう腫れた目で見上げてくる。

心が警告をする。

でもその警告を僕はあえて無視する。



「いいよ」

「ありがと……」



小さく笑うキミが痛々しい。





ピンポーン。



「はーい」



ドアを開けると見慣れた顔。

朝よりはだいぶ良くなったがまだ赤い目。

手には何故か大きなバッグが。

とりあえず不問で家へとあげる。



「泊まっていい……?」



よほど険しい顔をしていたのか不安そうに見上げてくる。

まずい。表情に出ていたのか。

っていうかその見上げるの勘弁してください。

わざとらしくため息をひとつ吐く。



「しょうがないな」

「ありがと」



えへへ、とはにかむキミ。



涙の原因には触れないように何気ない会話を交わす。

一階から夕飯が出来たから降りてこいという母からの命令に従い、二人して食卓へとつく。



「すいません。ご馳走になっちゃって。片付けお手伝いします」

「いいのよ〜気にしなくって。沙織ちゃんはいい子ねぇ。この子にも見習ってもらいたいわ」



こちらを見てくる母を無視してテレビを見ているフリをする。



「そんなことないですよー」



とかなんとか楽しそうに母と話しているキミ。



「沙織。上行こう」

「あ、うん」



半ば強引に話を終わらせ二階へと向かう。



「……やっぱり迷惑だったかな……?」

「え?」

「……なんか茜怒ってるみたいだし……」

「あ、ちが、そんなことないよ。怒ってる事は怒ってるけどそれは僕の恥ずかしい過去を暴露する母にたいしてだから」



慌ててもっともらしい答えを紡ぎ出す。



「本当?」

「本当だよ」

「良かった……」



愛らしい笑顔。

あまりの無防備さに思わず手が伸びそうになる。



「あのね」

「ん?」

「彼がね……」



あぁ、やっぱり「彼」がらみか。



「別れようって、言ってきたの」



別れてしまえ。



「……沙織はどうしたいの?」



別れてしまえ。



「分からない……。心がグチャグチャになって、彼が好きかどうかもよく分かんなくなっちゃった……」



ならば別れてしまえ。



「……そっか」

「茜が彼氏だったら良かったのに」



そういって抱きついてくるキミ。

……本心じゃない。

自分にそう言い聞かせる。

しかし相手の柔らかさに思考が奪われる。

思わず沙織を抱きしめようと腕を上げたその時。



「○○……」



心臓が悲鳴をあげた。
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