短編小説
□ぬくもり
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ねぇ、香奈は今幸せ?
『ぬくもり』
うるさく主張を続ける目覚ましを止め、隣でよく眠っている香奈を起こさないように布団から這い出る。
支度を整え終わってもまだ起きる気配はない。
よく寝てるなぁ。
そりゃそうだよね、昨日もあんなに……。
ハッ、いけないこんな事考えてる時間ないんだった。
にやけそうになっていた頬を押さえつつ慌ててバッグを引っ掴もうとして、ふと、手を止める。
おもむろに香奈のもとへと近寄り顔を覗き込む。
「……長いまつげ」
つぶやいてから柔らかな頬へと唇を落とす。
香奈が小さく身じろぎする。
もう本当に時間がない。
今度こそバッグをつかみ、
「行ってきます」
ドアを静かに閉める。
「いってらっしゃい」
と聞こえたような気がした。
そんなわけないか。