憧憬之華
□弐拾弐
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《憧憬之華・弐拾弐》
四年前のあの日。
僕は彼女を失った。
たった一人の女(ひと)を、妻にと望んだ唯一の彼女を手放してしまった。
あの日、無理矢理でもいいから抱いていれば、彼女が他の男に嫁ぐこともなかったかもしれない。
何度も何度もそのことばかりを考えていた。
どうにもならないのに。
彼女は嫁いで、僕は違う女に面影を求めて。
彼女は他の男に抱かれて、僕は面影を持つ女を抱いた。
唇を躯を他の男に許す彼女を想像しただけで胸は刔られ、狂いそうになった。
だから、憎悪のままに、抱いた。
彼女のことを何も考えずに、欲望のままに。
組み敷いた躯は綺麗で柔らかくて、甘くて気持ち良くて。
余裕が消えた。
憎みながら想い続けてきた彼女に、理性が消えて、目の前の快感に夢中になった。
―――だから、嗚咽を漏らす彼女を気づかないふりをした。
――だから、悲鳴を上げる彼女を気づかないふりをした。
―だから、痛みに眉を顰め堪えている彼女を気づかないふりをした。
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