憧憬之華

□拾玖
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《憧憬之華・拾玖》










貴方が幸せになるのを見守りたい。




貴方が愛する方を支えたい。





――貴方の、傍に、いたい。









裏切り者として貴方を支えることはできないけれど、せめて貴方が愛する方を、妻になる方を支えていけたら。



それを目標とし、女官となった。


そして皇后に一番近いと目されているご側室、薔薇姫さまにお仕えできるようになった。




優しく、美しい、薔薇姫さま。



皇后となっても後宮をまとめ、彼の手助けをできる器量がある強いお姫さま。




四年前のわたくしに無かった物を全て兼ね備えた、皇帝の寵姫。




望んだことが叶った。




薔薇宮に配属され、薔薇姫さまのお側に控えるようになって直ぐに彼女の素晴らしさを体感した。




この方こそが、薔薇姫さまこそが、わたくしの愛している方の妻になる。





胸が締め付けられなかったのは、嘘。


心が哀しくなかったのは、嘘。


嫉妬しなかったのは、嘘。


傷つかなかったのは、嘘。




胸は締め付けられて苦しいし、心は哀しく、嫉妬もして、すごく傷ついた。



羨ましかった。





彼に触れられるその身体が、愛されるその躯が、妻になれるその身が。


わたくしが欲しても決して手に入らないモノを持った薔薇姫さまが羨ましくて仕方なかった。







――どうしてわたくしではないの?



彼の隣に居るのがどうして彼女なの?







薔薇宮に勤めるようになって、昏い心はずっとそう囁き続けていた。


叶わないと解っていても、それでも望んでしまう愚かな自分。


そんな浅ましい自分が嫌で、欲深い自分が醜くて、心の底の奥底に閉じ込めてやった。




心ではそんなことを思いながら、優しい薔薇姫さまに仕える自分が憎い。




笑顔の下に隠して。




彼が大嫌いな笑顔をしている自分が、嫌だった。



だから、きっと、これは報い。






優しい薔薇姫さまに、醜いわたくしが仕えたことへの罰。




薔薇姫さまは気づいてしまったのだ。



わたくしがあの方に仕えるに値しない人間だということに。







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