憧憬之華
□拾参
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《憧憬之華・拾参》
夢に見ることも赦されないのでしょうか。
あの時の自分に強さがあったなら、彼を裏切らずにいられたかもしれない。
覚悟があったなら、宮廷に身を置き、彼を支えていられたかもしれない。
彼をまもる力が、彼を支えていく覚悟があったなら。
――ずっと、ずっと、傍に。
わたくしは夢に見る。
傍にいてほしいと願った彼の手を取ることができなかった四年前。
本当は言いたかった。
わたくしが貴方の傍にいたい、のだと。
そう告げたかった。
好きだとも、愛しているとも、傍にいたいとも言えなかった。
何一つ、言えなかった。
最後の夜、わたくしは口から出てしまいそうになった言葉を飲み込んだ。
あの時、わたくしは自分の意志を優先させなかった。貴族として行動した。
臣下の一人として、彼に接した。
女として彼に縋れなかった。
女になれば、彼の邪魔になってしまうから。
家族を犠牲にすることができなかった。
愛する彼を犠牲にすることができなかった。
ただの女になれれば、傍にいられた?
誰も応えてくれない問いを胸にずっと仕舞い込んで、蓋をして、鍵をして。
考えない、知らないフリをし続けた。
あの時の決断を後悔してはならないから。
貴族の一人として、臣下の一人として当然のことをしたのだから。
だから、赦しを乞うつもりもないのです。
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