月無夜

□月無夜
1ページ/6ページ




第十九夜《醒ノ夜》









「……それに、陰陽術の気配がします」



「…ほう」





ラクスの言葉に無反応だったアスランが口端を吊り上げて笑った。


面白い、とでも言いたげな顔で。








「四神を代償無く召喚する方法はわたくしが知る限り在りません。それなのに、白虎からはその気配が残っている」




四神召喚に成功した例はたったの一度しかない。



クラインの祖は希代の巫女だった。


溢れ漏れ出る霊力を四神召喚に使い果たし、命を落とした。召喚された朱雀と契約したのは巫女の娘、巫女姫だった。



そして朱雀を使役する代償に短命という呪いを受けた。




四神を召喚することができたとしても、その術者は命を落とす。


そしてその血の汚れは代償として、呪いとして、次代に引き継がれる。




その呪いを厭うたのが、ヒビキの祖だった。


退魔師を失う呪いを避けるために、ヒビキの祖は四神には劣る一匹の龍を召喚し、術を込めた。千人の契約者の血と霊力を糧に青龍となる術を。


千人目に成就され青龍となった紫王に朱雀桃桜が秘めた代償は必要とされない。



千人分の術者の血と霊力が、代償だから。




朱雀召喚の代償を後払いにすることにしたのがクラインの祖で、青龍召喚の代償を前払いにすることにしたのがヒビキの祖。


陰陽術に長けた彼の一族にしかできない複雑で高等な術。




クラインとヒビキにしか、四神を召喚する術は伝わっていないはずだ。


そしてどの家も、それを禁術としている。









「――術者は、何処にいますの?」






.

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ