月無夜
□月無夜
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第十五夜《始ノ夜》
『我々は心配しているのです、巫女姫様』
――わかっています。
『巫女姫様のお気持ちはお察し致しますが、これも一族のため』
――もう、しつこい。
『延いては、退魔一族全体のためになるのです、巫女姫様』
――そんなに何度も言わないで。
『どうかご理解下さいませ』
――分かっている、のに。
『お願い致します、巫女姫様。巫女姫様だけが頼りなのです』
――本当に、残酷、ね。
そんなことをわたくしに頼むなんて。
嫌、嫌。
貴方たちの願いなんて、聞きたくないわ。
でも、わたくしは、“ラクス・クライン”は聞かなくてはならない。
それが、退魔家宗家宗主、クライン家最期の当主としての役目。
ああ、なんて生き難いのかしら。
わたくしは、ただ。
「……ラクス?」
ぼぅとしているラクスをキラは覗き込んだ。
屋上で二人っきりの昼食タイムなのだが、ずっと心ここに在らずの状態で、ぼんやりしているラクスに、キラは心配になる。
「調子悪いの?」
眉を寄せるキラに、ラクスは安心させるために微笑みたかったが、上手く笑えなかった。
ぎこちない微笑みを浮かべる彼女に、キラはますます眉の皴を深くする。
「どうかしたの?大丈夫?」
不安そうに紫水晶の瞳を揺らす恋人に、胸がきつく締め付けられ、ラクスは呼吸がたどたどしくなり苦しくなる。
愛おしさと切なさに、苦しくて、泣きたくなってしまう。
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