月無夜

□月無夜
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第十二夜《惱ノ夜》













「……ぅ、‥ッん」








ズキリという鈍い痛みにラクスは目を覚ました。




喉の奥から熱いモノが込み上げ、慌てて体を起こそうとするが腰に巻き付いている腕に邪魔をされ叶わない。
















「ッ……ゴホ!!こほっ」








喉が焼かれるような痛みに、呼吸ができないほどに咳込む。







身体を震わすほど大きく咳込むと、さすがにラクスの異変に気づいたキラが固く閉じていた瞼をこじ開けた。












「ラクスッ?!」






「き、キラ……ゴホッ!!く、薬を」







コンコンと咳込み続けるラクスは片手で口元を押さえながら、もう一方で薬を仕舞ってある棚を指差す。












「――ラクス、大人しくしてて」







キラはぐったりするラクスを片腕で支えながら、彼女の細い腕に注射針を差し込んだ。







「もう、大丈夫だから」








鎮静剤を打ち込んだキラは、ラクスの口元を汚した血を優しく拭った。















「…ご、めん‥なさい。シーツ、を、汚…し」








即効性の鎮静剤に、ラクスの意識が浮上する。咳込みで吐血してしまったことを、キラに謝罪しながらラクスは勝手に閉じていく瞳に抗わなかった。











彼女の鮮血で染まったシーツを変え、ソファに寝かせていた彼女の身体を抱き上げる。








ラクスの身体は力を使えば使うほどその代償として、弱っていく。





その兆候が顕れたのは、僕が龍飛と契約した時からだった。







ラクスに泣かせてもらったあの日、僕は彼女の血液に塗れて目を覚ました。



人形のように動かなくなった彼女を抱き起こし、何が起こったのか理解できなかった僕は、とりあえず叫んだ。









そして使用人を呼び出し、ラクスを連れて行かせた。僕は何をすればいいのか判断できなかったから、叫ぶしかなかった。





彼女の生死すら確認できなかった僕は、大量の血液と、だらりと力無く垂れた彼女の身体を呆然と見るしかできなかったただの役立たず。







それは今も変わらない。








苦しむラクスに薬を打ってあげることしかできない。













「……ラクス」










彼女は戦い続ければ、確実に死ぬだろう。






ヒビキが呪われた一族だったように、クラインもまた呪われた一族だった。










大きな力を有する代償として、当主となる者は短命や不妊といった生命や身体に関する呪いを受けるのだ。





だからきっと僕がいくらラクスを愛しても、抱いても、何も形には残らないだろう。






ラクスの胎内に、僕の分身が宿ることはない。








ラクスの胎内には、もう別のナニかが、いるから。











僕の子どもが宿れる場所なんかナニかに占領され残っていない。





彼女の躯を犯しつづける獸。











クライン家の当主になることが隠されていたラクス。





その事実は彼女の大切な姉を追い詰めてしまった。








大切な姉のために大きな力を欲した彼女は、代償に、その大切な姉をなくしてしまったのだ











でもそれは、呪われたクライン家の中で更なる呪いを背負ったラクスの宿命だったのかもしれない。










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