絶対零ド

□絶対零ド
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第九話―始まり―







『皇女殿下?』




すべてはその一言で始まった。













「皇女殿下、な…何をしていらっしゃるのですか?」




「あーら。貴方だぁれ」







ジュリアナの視線は、空と地が逆さまになっていた。ぷらぷらと風に身体が揺れるせいか、なかなか声の主を確認できないジュリアナは、適当に声をかけた。





「こ、皇女殿下。こちらです」




木の幹に逆さになってぶら下がっていたのは、間違いなく、第一皇女にして皇位継承権第一位の、ジュリアナ・レイク・ド・ウル・フォーレイル殿下だ。皇女殿下とは思えない奇行に、エドワード・リア・ヒビキは、少しうろたえつつも、彼女に見えるようにひざまづいた。












「あら、貴方――えーっと、ヒビキの者よね?」





「エドワード・リア・ヒビキといいます。ジュリアナ皇女殿下」







「ふーん。…よっと」








ジュリアナは大きく上半身を揺らして勢いをつけると、そのままクルッと回り地上に着地した。









「私は…っと、もう知ってるか。よろしくね。貴方はお父様からよく聞くの。ヒビキはとても優秀な後継者がいるから羨ましいって」






それじゃ、まるで私がダメな後継者、と言いたいのかしらね〜、と零すジュリアナにエドワードはぽかんと首を傾げた。










「ん?私の顔に何かついてる?」




「いえ、思ったより、ただ」






エドワードは素直に言いそうになったが、慌てて気がつき口に手をやった。









「ただ、何よ?」




きょとんと首を傾げるジュリアナに、エドワードは本当のことがいわず言葉を濁すばかり。すると、ジュリアナは何かを悟ったのか、美しい碧眼を細めた。










「私が想像した感じのお姫様じゃなかった、って言いたいんでしょう?」




「い、いえっ!!」





「アハハっ。いいのよ。大抵の人がそう思ってるの知ってるし」




女官長とか思惑でね〜。嘘も真になるかもしれないから〜って、ホントに失礼しちゃう。と、愚痴を続けるジュリアナに、エドワードは目を点にした。彼の中、といってもジュリアナに親(ちか)しくない者たちでのジュリアナ皇女像は、現実と掛け離れていたからである。







ジュリアナ・レイク・ド・ウル・フォーレイル皇女殿下といったら、金色の美しい髪を持ち、空色に輝く碧眼は、穏やかに微笑みをたたえているという、絵に描いたようなお姫様っぷりなのである。


趣味は紅茶や華を愛でること。










「あっ、思考だだ漏れだから言わせてもらうけど、私の趣味木登りとかアウトドア系だから。馬とか大好きぃッ!」









パンと両手を胸の前で合わせて無邪気に笑うジュリアナは、遠目可愛らしいお姫様。しかし顔と台詞が一致していない。











「――エドっ!!」




「?!し、シーゲル!!」









厄介なことなってしまった、と後悔していたエドワードに、天の助けとばかりに声がかかった。





彼の天の助けとなったのは、学び仲間であるシーゲル・クラインだった。












この時、エドワード二十歳、シーゲル十八歳、ジュリアナ十四歳。すべては、この日から始まったのだ。









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