絶対零ド
□絶対零ド
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第二話―血族―
「ふぅ」
凝り固まった腰をのばし、顔についた汗を拭いたラクスは、小さく息をついた。
「今年もたくさん実ってくれましたわね」
赤く熟れて美しく輝くトマトに、ラクスは満足そうに微笑んだ。
彼女自宅である小屋の裏には、ラクス一人には十分なほど収穫のできる畑があった。
基本は自給自足のためだが、余ってしまうため、定期的に街に売りに行っている。そこで得たお金で服やパン、日用品を買っているのだ。以前はもう少し小規模だったのだが、キラが作り出してしまったのだ。
「今日はこのトマトでスパゲッティでも作りましょうか」
食べ頃のトマトを数個収穫したラクスは、嬉しそうな様子で小屋に戻って行った。
「ラクス」
「…なんですか?」
夕食を食べ終え、片付けに入ろうとしたラクスの腕をキラは優しく掴んだ。
「あ、の今夜さ――泊まってもいい?」
控え目にそういったキラが、食べたばかりのトマトに似て見えたラクスは思わず噴き出した。
「ら、ラクスっ」
クスクスと腹を抱えて笑うラクスに、キラはムッと頬を膨らませ、不愉快、という単語を態度を持って見せ付けた。
「あらあら」
ご機嫌をすっかり損ねてしまったキラに、ラクスは頬に手をあて、のんきに零した。
「仕方ありませんわね」
ラクスは溜め息とともにそう呟くと、スルリとキラの首に腕を回し、膝に甘えるように座り込んだ。キラの逞しい胸に頬を寄せながら、ゆっくりと瞳を閉じ、穏やかとも言える時の流れを感じた。
「ラクス?」
穏やかなラクスとかわって、好きな女の子にぴったりと密着されているキラはドキドキと心拍数を上げていく。
「…隠して――わたくしを、月から隠して、キラ」
深い湖の底のような瞳は、孤独を映し、キラの胸を締め上げる。
「うん。ラクスを隠してあげる」
キラに、ぎゅうっと痛いくらいに抱きしめられたラクスの瞳から波だが零れ落ちた。
ラクスの白い躯が、キラの筋肉質な躯に覆いかぶさられ、彼女を照らす月から隠す。ラクスの躯が白すぎて、暗闇でぼんやりと輝いてしまう。月を嫌うラクスの躯は、地上で輝く月のようだ、とキラはラクスを抱きながら思った。
「愛してる、ラクス」
「…は、‥ぃ」
痛いくらいのキラの愛情はラクスの助けでもあり、苦しみでもあった。しかしラクスはそれを悟られまいと必死だった。ずっと孤独の時を過ごしてきた彼女にとって、キラがくれる喜びが、幸福、と呼べるものになってしまっていたからだった。そしてそれを知ったのと同時に、それが有限である、ということも知っていた。だから、今だけは、今だけは、と必死になってそれに縋っているのだ。
「ふ…っう――す、きぃ」
「うん、ラクスっ」
キラは小さなラクスを躯をきつく抱き締めた。