絶対零ド

□絶対零ド
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第十四話―ヴァン―














「本当に、いいの?」








「今しなくて、いつやれば?」










濁りない碧眼が、まったくの迷いを見せず、僕を貫いた。












「そうとう、痛むよ?」








「承知しています」












次に目覚めたラクスは、背中に刺さった矢を抜いてほしい、と頼んできたのだ。



矢が刺さって、まだ一日程度しか経っておらず、今のうちに抜かないと肉がしまって抜くときに更に痛みを伴うと、彼女はわかっていた。







ただ、今は鍾乳洞の中で、僕は医術に携わっているわけではない。



適切な処置ができる自信はない。
しかし、鍾乳洞から脱出すれば、おそらく血眼になって僕らを捜している軍に発見される時間はそうはかからないだろう。



それなら今のうちに矢を抜いてしまえば、痛みを減らすことができるのかもしれない。


















「わかった。…やるから、服を口の中に。痛むはずだから歯で噛んでて」











「っ…は、い」












衣服を厚くさせたものをラクスに噛ませ、にわかに震える躯を見ないフリをして、篦(やがら)に手をかけた。
















「いくよ、ラクス」










「……っふ」











ラクスの細い躯を左腕で抱きしめて、右腕に力を込めた。


























「っ…いやぁあああッ!!!!」










断末魔のような叫び声が、鍾乳洞でこだまし、ラクスのしなやかな躯はのけ反り、ガクッと力を失っていった。














涙で濡れた顔は青白くなり、背中からは再び出血し始める。

















「っ、くそ」










口に詰め込んだ服を取り出し、マントを引き裂くと、肩できつく結び、止血を施す。早く医者に見せなくては、血を失いすぎて、危険な状態になる。






抜き去った矢の鏃にもラクスの血がべっとりとこべりついていた。















「……これ、は」











赤く染まった鏃は、黒い光りを放ち、背中に冷たい汗が伝うのを感じた。










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