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「…………」
タッタタタッタタッタタタッッ、と見ているだけ指が痛くなりそうな音がナナメ向かえから聞こえる。
そちらに視線を遣って、色々と尋ねたい。まずは、何故此処に?からである。
非番なはずじゃ?とか。アカデミーに通っている間は護衛任務からは外れることになっているのだ。他の技術関係とか、オーブ関連のこと以外は振り当てないように調整する役目の一端を担ったのだから、上司の予定は頭に入っている。
そこでやる必要が?と、これもぜひとも知りたいことである。
上司はさらに上司、ここプラントの最高責任者である、評議会議長の重厚な執務机のナナメ後ろ、2メートルと離れない位置に応接セットのソファを引きずり端末を膝に乗せて座っていた。
いつも完璧なインテリアの議長執務室がちょっとへんてこなことになっているのはそのせいである。
ソファ(しかも長いヤツ)を運ぶ手伝いをした腕と腰が痛いのも、ついでかのように気になりだした。(原因は明らかに楽をしたと見られる上司、そのためほぼ一人で運んだ)
ついでに、タイピング音、速くないでスカ?速過ぎやしませンカ?も聞いてみたい。
ちゃんとできてるのだろうか。そもそも何をしているのだろう。
――なんかもうイロイロ、キャパオーバーかもしれない。
「……ン、シン…?」
「へぃっ」
執務机ナナメ後ろばかりに意識がいっていたシンは目の前に居る上司の声かけに反応ができなかった。変な声で返事をし、目線を戻せば蒼い瞳と目が合う。
「お疲れですか?」
「い、いえっ。すみません、大丈夫です」
「では、こちらをジュール隊長に届けて下さいますか」
「は、はいっ」
目下イザークの直属になっているシンはありとあらゆる雑用で走り回っている。
キラがアカデミー生の間の仮措置なのだが、ここ数日だけで酷使されまくっているのだ。
部下になるのは二度目だが、前回は護衛任務が主で雑務全般はすべてルナマリアの担当だった。パイロットといえど内勤務の今、雑用が多いのだ。
正直こんなにハードとは、というのが本音。
言い方は悪いが雑巾みたいにコキ使われている気がするのだが。
「――待って、シン。これもついでにイザークに持っててくれる?」
タタンッとタイピングを終わらせたキラは端末からディスクを抜き取りシンに渡した。
「はい」
「それとラクスのこれからの予定は?」
「ぇっと、議長はこれから定例議会の出席ですが」
「ふーん。で、その間の君は?」
「俺は、待機になってます…ケド」
「わかった、ありがとう」
数時間座りっぱなしだったため固まった筋肉を解すキラに、ラクスも首を傾げた。
「どうなさいましたの?」
「なんでもないよ、ラクス。会議が終わったら一緒にお昼食べよ」
シンが目の前に居ても構わず、キラは腰を屈めてラクスの目尻に唇を落とした。
「‥‥‥‥」
職場ではあまり目にしない光景だが、それ以外では結構見ているシンにはすっかり耐性がついている。
しかし互いの立場上、スキンシップを控えていたはずなのに、と思ってしまう。
今日がちょっと普段と違うので、余計に気になるのだ。急な出勤といい、ソファ運搬といい、奇行が目立つ。
「…じゃあ失礼します」
まあでも議長に関連しての上司の奇行も慣れっこなシンは考えることを早々に放棄した。理由はだいたいひとつだからだ。
「あ、シン。また後でね」
「…へっ」
放棄しても、自らの身に関わるとなると気になって仕方ないシンであった。
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