TIR NA NOG
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「‥‥‥」
いくら望んだのが彼だった、としても、その想いから解放されない。
俯いた姪を一瞥したアイリスは、口許を緩めてわらった。皮肉に嗤った。
「――遺伝子というものに、逆らえないのかしらね」
「‥!」
「デュランダル氏の考えに同調するつもりはありませんよ。ただ、彼に至っては、そのようになっていると思ったの」
民間人として戦争、モビルスーツという兵器から遠く離れていたはずなのに、何の因果か、そうなってしまった。そう言いたいだけだと、アイリス付け足した。
しかし、そうですね、などと簡単に頷けるはずもない。
「叔母さま。それはあまりに」
「事実でしょう。彼は優秀よ。設計された遺伝子通りに、役目を果たしているわ」
「遺伝子は関係ありません。今の彼は、彼自身がっ‥‥、の‥ぞんだ、」
そこまで言ってラクスは言葉を詰まらせた。
恋人が望んだ未来が今だ。遺伝子故の結果が今ではない。そう言い切れる。言い切ることができるほど、彼を知っている。
しかし、すべてがそう、とは言えなかった。
巻き込まれてしまった事柄もある。
「数年前まで民間人だった少年が、今では大戦の英雄で二ヵ国の准将閣下なのよ。望んでそうなれるとでも?」
「彼が望んだのは、そんなことではありませんわ」
英雄になりたかった。准将になりたかった。
そんなことを望む男性(ひと)ではない。
叔母の言葉に込み上げたのは、怒りだった。
「貴女のそばに、が望んだこと…と言いたいのかしら」
「……」
「では貴女の望みを聞かせて?」
恋人の選択に自分が深く関わっているのは、もう否定しようのない事実だ。手放した力を再び手にしたのも、今、プラントにいるのも、彼の願望の中に自分がいた。
「‥彼を、愛しています」
「そう」
「愛しているのです、心から…」
叔母が望んだ結果ではない。そんなこと解っていた。ただ知っていて欲しかった。
自分が彼を愛していることを。
掛け替えなく、愛おしく想っていることを。
「話を変えましょうか、ラクス」
「‥っ」
食が進まないラクスと違いアイリスは主菜に合わせたワインを口に含んで微笑んだ。
その笑みは何度も目にしたことのある顔だ。昔から何度も何度も。忙しい父に代わり、自らの教育を決めてきた叔母の顔。
「貴女に相談したいことがあるの」
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