TIR NA NOG

□V-Z
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『コーディネイターというのは本当に優秀よね。民間人であっても、訓練なしでMSという兵器を操れてしまうのですから』






過去の報告書は少なく、散逸している。しかし少ない中でも驚かされる事実ばかりだったと、揺れた紅茶の水面(みなも)を見つめながらアイリスは思った。









『ヤマト准将には軍人としての素養が欠けている部分がある。それではいずれ困ってしまうでしょう?だから推薦したのよ』


『‥それで、俺の件とは関係あるのですか』


『もちろんです。私も理事としてそれなりの便宜をはかりますが、貴方がアカデミー生として内部に居てくれるのなら心強いわ』





カップをソーサーに戻したアイリスがにこりと微笑む。ルイは母が淹れた紅茶を飲むために視線を下げた。








『ヤマト准将には公務もありますから、ずっとアカデミー生としていることはできないでしょう?受講するのも必要なものだけですから、他の生徒から目立ってしまうわ』


『フリーダムのパイロットなら、いらない訓練もあるでしょうしね』


『寮内のことでもきっとイレギュラーは起こります。貴方にはそのフォローをしてほしいの』






急な呼出しもきっとあるだろう。

お飾りと揶揄する者がいても、彼の力は本物であり、名声は紛う事なき真実だ。フリーダムは既に国防の要になりつつある。




フリーダムの有用性について、国防委員会の立場から理解する機会があるルイはよくわかっていた。停戦したものの、小さな火種は燻ったままなのだ。いつまた、開戦するか分からず、核という凶器も残っている。



ブルーコスモスの母体であり戦争を扇動していたロゴスは壊滅した。事実上、大西洋連邦も崩壊寸前。オーブ・プラントが主導する新たな安全保障のシステムもまだ試験段階の域を出ず、テロリズムの脅威は日常だ。









『准将が滞りなくアカデミーでの単位を消化できるように、協力してちょうだい』





ザフト、軍からの派遣は人員の選定が難しいだろう。信頼のおける人物となると、自ずと限られてしまう。フリーダムのパイロットに害を為す可能性がゼロ、となると周辺の人物と範囲はいっきに狭くなる。

周辺の人物となると有名人ばかりでアカデミーに潜り込ませることはできず、またその彼らはプラント最高評議会議長の側近や護衛たちだ。



自らその役目が回ってきたのも納得である。







『……母様のお願いなら、叶えなくちゃいけないね』



『ありがとう、ルイ。助かります』






頬に添えた手を崩しにっこりと満足げに微笑んだ母に、ルイも笑みを返した。







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