TIR NA NOG
□V-X
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「――貴方の力はプラントでも必要なの。夫もそう言っているわ。ラクスもきっと貴方の力を必要とするはず」
ラクスの叔母であるアイリス・ランカスターは、すっと瞳を細める。オーブの准将服を纏った自分を刺すような、そんな色の眼差しにアスランは顔を上げられなかった。
「ア、アイリス様・・俺は」
「なぁに?」
アイリスの外見はとても優しげで淑やかな婦人である。母親似なラクスの面影も多く見受けられるが、内面は辛辣であった。少なくともアスランはそんな印象を持っていた。
穏やかな顔で相手を責め立てることを得意としている、そんな気がしてならない。
敵にしたくない、そんな婦人だった。
「…俺はオーブに、力を尽くしたいと」
「そう。・・残念、ね。貴方は公私共にラクスを支えて欲しかったのだけれど」
頬に手を沿え困ったような笑みで首を傾げたアイリスに、アスランは詰めていた息をゆっくり吐き出した。
「ごめんなさい。なかなか諦めきれないのは私の悪い癖ね。ルイにも注意されるの」
「・・ルイ、も、元気ですか?」
やっと自分の話題から遠退いたことにアスランは安堵した。笑顔で針をぶすぶす刺してくるアイリスは本当に避けたい相手だった。
半年前の歓迎パーティーには欠席していたため油断していた。評議会議員の家族はこういった催しに招待されるのを知っていたのに。
「ええ。とても元気よ。最近は少し忙しくてね。今日は来れなかったの。貴方にも会いたがっていたのに、残念ね」
ランカスター家の一人息子ルイ・ランカスターも厄介な相手だったな、と思い出したアスランの顔色は優れない。
「それじゃあアスラン。また機会があったらお会いしましょう」
「はいアイリス様」
言いたいことは言い終わったのか、アイリスは満足げににっこりと微笑み背を向けて行ってしまった。ほんの少しのはずの邂逅が、相手によってこんなに疲弊を感じるものなのかとアスランは思った。
アイリス・ランカスター、彼女の中では自分がオーブに居ることは面白くないことだと、分かっただけでも幸運なのだろうか、と声に出さず心の中で呟く。
アイリスは旧家のお嬢様そのもの、という性格であったとアスランは今更ながらに思い出していた。
つまりは我が儘なのだ。
自分の思い通りにならないのが面白くない、と笑顔で言ってくるそんな性格。
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