TIR NA NOG

□V-X
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「国防委員会から、となってはいるが入学打診はランカスター理事から来ている。キラ・ヤマトの微妙な立場を慮っての特別措置、だそうだ」






二重軍籍とフリーダムのパイロット。


この二つがキラの立場を微妙なものにしているのは周知の事実だ。そのためカガリがオーブ軍から籍を抜くよう精力的に働き掛けたが、フリーダムを手放したくない軍及び首長たちに阻まれ今回の機会に間に合わなかった。



あンの頑固者たちめーー!と喚いていた様子はの記憶に新しい。







「キラ・ヤマトが議長と共にこのままプラントに残るであろう、というのはごく親しい者たちの認識だ。一時的ならば見送っても良いが、違うだろう?」





未だオーブの軍籍から抜けない理由の一般的解釈はひとつ。オーブに戻るから、だ。


国防委員会もほぼこの認識があるだろう。




だから今回の打診も断ることができるのだ。




選択する権利は本人にある。





ただ一般的解釈とは異なる真実を知るごく一部の者たちにとっては、この打診は断ることより受けたほうが得策に思える。


キラは恋人であるラクスの居るプラントにこの先も残るのだ。それならば現状のままの微妙な立場でいるよりは、アカデミーで軍規や体術を学んだ方が今後のためにもなる。





これからの若手もフリーダムのパイロットに対する印象が和らげば良し。



またキラの態度に眉を寄せる者も見方を変えるかもしれない。


宿敵から、頼りになる仲間へ。




アカデミー入学で得られるプラス面の可能性は多岐に渡り、魅力的なのだ。











「…キラのことだから、嫌の一言で片付けそうだが」





基本自分に合わないことは一切やりたがらない性格を知っているアスランだが、話の流れで答えが見えてしまった。







「・・入学を決めたんだな」





アスランの答えにイザークは眉を寄せたままゆっくり頷いた。









「議長は奴が置かれている環境に酷く心を砕いている。それを知っているからの答えだと思うが」



「‥そう、か」






我が儘で甘え気質の幼なじみが変わるとしたら、たった一人のためだけだ。


そのたった一人を心配させているとなったら、そう答えるのも無理はないとアスランは納得した。





二度の大戦において敵として戦った軍に身を置くと決めたのもその証拠だ。そんな無茶苦茶面倒くさいこと、率先してやりたがらないはずなのに。


まあそう決意するに到った理由は、恋人と離れていたくないという自分本意な想いが大半を占めている。











「キラがアカデミーに」






アスランは歌姫の登場によってオーブの将校たちからようやく解放されたキラを見つめた。


やって来た恋人に優しい表情を浮かべているのが遠目にもわかる。とても幸せそうな顔だ。










「………」





自分も卒業したアカデミーに幼なじみが入学する。


過去の自分だったら思いもしない、正に青天の霹靂的大事件だ。










「こちらの公務とアカデミーの授業を調整しながら、という話で、身分は明かさないことになっている。最初から構えられてはやりにくいだろうからな」






アカデミーは全寮制で、班ごと行動する機会も多い。フリーダムのパイロットとして入学したら気まずさ満点だろう。










「軍規と体術系を一通り履修するまでの措置だ。あまり心配する必要はない、と思う」



「‥ああ」





キラがMS戦だけに秀でた民間人であるのは、後々厄介な問題を釣りそうな弱い所でもあった。それが案外速く訪れてしまっただけ。











「礼を言う」



「?」



「キラのこと。気にかけてくれて、本当に感謝している」






意見が合うず衝突してばかりいたイザークが、最大の心配の種である幼なじみの面倒を見ていてくれる。それが本当に心強かった。


オーブに残っているカガリに良い土産話ができたアスランは笑って言った。





照れか怒りか、それとも両方なのか。



イザークが顔を赤くして騒ぎ出したのは言うまでもない。









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