TIR NA NOG
□V-X
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「…ランカスター理事は、貴様がザフトに戻って来ることを望んでいたのだな」
「イザーク」
「ランカスター理事の本職は知っているだろう?だから、というのもあるかもしれんが」
アイリスが漏らした本音。
ラクスを公私共に支える、というのは、そのままの意味だ。昔のように、ということを示唆している。
「・・アイリス様は、もしかして知らないのか?」
昔のように公私共に支える、それはつまり婚約者だった時のことだ。
遺伝子の相性によって結ばれた婚約。
婚姻統制と云う制度に従った婚姻は、当時政治的にもプロパガンダにも最適だった。
そして、その縁談に一番賛成したのはアイリスだった。
クライン家側でのことなのでアスランも詳しいことは知らないが、母を亡くしていたラクスのために精力的に動いていたらしい。
姉の形見でもあるラクスを想ってのことだ。
月に移り住んで以来アイリスとは会う機会が減ったが、数回顔を合わせただけでも彼女が姪のラクスを大切にしているのはアスランにも伝わっていた。
「…議長のプライベートのことはあまり知らん。ただ議長がご自宅に戻らずキラ・ヤマトと共にホテルで生活しているのは聞いているだろう?」
「ああ。機嫌良く報告してきたからな」
官舎暮らしの自分に幸せオーラ全開で惚気をだらだらと聞かされる。しかも真夜中に。
あれは流石に嫌がらせかと思った。
「議長のプライベートはいつの時代も極秘だが、彼女の場合は歌姫だったこともあり更に厳戒体制を引いている。パパラッチが酷くてな」
「確かに昔からうろついていたな」
婚約していた頃は広報用に写真を提供したことはある。ただラクスは政治活動か歌う以外のメディア露出は控えていた為、パパラッチが付き纏っていた。プライベートの写真が雑誌に載っていた時は驚かされたことがあったが、本人はマイペースだ。
周りばかりが気を配っていた記憶が、アスランにはあった。
「議長がホテルに滞在しているというのはほんの数人しか知らぬこと。ランカスター理事は入っていない」
「だがあの時あの場にはランカスター国防委員長が居たはず」
あの時、あの場、とは二人が再会した時、再会した場。感極まった二人は人目も憚らずに抱き締めあった。事情の知らないプラント側の面々の多くは驚愕の表情をしていた。
フリーダムのパイロットはラクス・クラインの力強い同志、という印象が根強く浸透しているプラントにおいて、更に深い関係であったのは予想外だったのだろう。
加え、婚約が破談になったことがたあまり知れ渡っていないのも、驚かれた一つの理由なのかもしれない。
「ランカスター理事は口にしないがきっとご存知だろう」
「何か問題あるのか?キラはラクスが選んだ相手だ。ラクスを可愛がっているアイリス様が反対を」
「・・・反対する気がないのなら、何故、お前に戻って来いと言う?」
「‥‥それ、は」
「それに、……アカデミー入学の打診も気になる」
「アカデミー入学?‥なんだそれは」
驚くアスランにイザークはやっぱりと息を吐いた。キラが何も言っていないというのは予想通りだ。
予想通りすぎてため息が出る。
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