TIR NA NOG
□V-W
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「‥アカデミーは全寮制だぞ。わかっているのか?」
ラクスがキラの滞在するホテルにペントハウスを借りて一緒に住んでいる。それはごく近しい者にしか知られていない。
軍も利用するホテルであることと、ペントハウス専用のエレベーターがあるから外に漏れる心配もない。警備面においてもクライン邸と遜色ないため側近の誰ひとりも苦言を呈することはなかった。
しかしそこまでしてホテルに滞在するのは、それなりの理由があるからだとイザークは考えていた。
クライン邸ではなくホテルを選んだ理由。
側近たちにしか知らせず、まるで隠れているかのよう。
誰にも邪魔されない場所で恋人と一緒に居たいと思っているのだとしたら。またそうする何かがあるのだとしたら。
「うん。でも週末は帰れるみたいだし、やっぱり必要だと思うから」
そう、必要だ。
今暇な時間を見つけて行っている軍事訓練の結果を知るイザークが、その事実を一番理解している。
地球プラント間での戦争がないといっても、ブルーコスモスによるテロが無くなったわけではないのだ。半年前にはラクスを狙ったテロ未遂もあった。
コーディネーターを忌み嫌うブルーコスモスの最大の標的は、コーディネーターを統べる存在となった彼女でもある。
彼女の傍に居るという意味は危険も孕んでいる。それに対処できる能力を学ぶにもアカデミー入学が手っ取り早い。
「ラクスも新しい法案のことでまたちょっと忙しくなるみたいだし。そっちのほうを僕は手伝えないでしょ?」
飾りみたいなキラにラクスが進める手伝いはできない。その立場を変えるまで、何も助けになることができないのだ。それを気にしていることは、イザークも気づいていた。
「だから、今の僕にできることはこれなのかなって。また寂しくなるけど、週末には会えるし公務が重ねれば会えるでしょ?」
「‥そうか」
アカデミーの理事アイリス・ランカスターの推薦であるならばきっとその辺りの調節は簡単だろう。何か腑に落ちないモノを感じながら、イザークは頷いた。
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