TIR NA NOG
□V-V
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『……ごめん』
躯の中に熱があるのを知った日、わたくしは冷えることもまた知った。
「――アカデミーへの入学?」
叔母の言葉をそのままラクスは返してしまった。オーブとザフト、そのどちらでも軍籍を持ったキラの立場は微妙なところである。
オーブは彼を離したがらず、プラントはそんな事情を抜きにフリーダムのパイロットを欲した。
二度の戦争でザフトに敵対したフリーダム。
ザフトは何度も煮え湯を飲まされた敵であるフリーダムのパイロットは、ラクス・クラインの同志としても名を馳せていた。
ラクス・クラインが平和を望む歌姫であるならば、フリーダムはそれを叶える騎士。
プラントの国民はそう思っていた。
ラクス・クラインがプラントに戻ったならばフリーダムのパイロットもその側に居るだろう、そう思っていたのだ。
しかしフリーダムのパイロットであるキラ・ヤマトはオーブの獅子姫カガリ・ユラ・アスハの実の弟で、ラクス・クラインと共には来なかった。過去のいきさつは抜きにして、一騎当千の強さを誇るフリーダムのパイロットは戦争により弱体したザフトには旨味を大いに含んでいるのは確か。
フリーダムと共に宇宙(そら)を駆り、力を示したザフトの英雄アスラン・ザラはオーブの軍人となり、戻る意志は見られない。
クライン派の双璧とも謂える二人が彼女の側に居ないというのはラクス・クラインの名を利用したい思惑にとってよろしくない事実だった。
失策と敗戦により戦後、評議会は国民からの支持を失っていた。国として機能するためにも、二度の大戦で終戦に導き平和の象徴としての絶大な支持力を持つラクス・クラインは必要だった。施政の歯車に不可欠なラクス・クライン。彼女が持つ総てを引き入れたい、特に最強と謂われるフリーダムを。
ラクス自身の考えとは別に、動いたのは国防委員会だった。戦前からオーブが強く主張していた案件を引き換えに得たフリーダムのパイロット。
平和を実現させた歌姫と騎士が揃うのは、不安定な情勢を表面上だけでも支える柱となり、国内からの批判は抑えられる。
国内の安定、それが何よりも必要と見做したザフトは長年の敵を引き入れたのだった。
あと少しで終戦一年を迎える。
政情の安定はザフト内部でしまい込まれていたフリーダムのパイロットに対する長年の様々な思いが表面に浮き出てきていた。
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