TIR NA NOG
□V-V
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「ヤマト准将の能力については誰も口を挟めないわ。けれど口を閉ざすことはないでしょう?」
「ですが」
「准将が心からプラントに尽くして下さったことはこの半年だけでも評議会はとても評価しているわ。けれど、ザフト内部はどうかしらね」
渋る姪を篤と眺めたアイリスは手に持ったティーカップをソーサーに戻し、テーブルに置いた。笑みを絶やさずに彼女は続ける。
「簡単にならないのが人の心というもの。ザフトの兵士たちにはフリーダムへの恐怖心が根強く残っている。それを解決する術を私なりに考えてみたのよ?」
敵だった、という念が強く残っているならば、仲間だということをそれ以上に強く刻み付けてしまえばいい。アイリスの言葉にラクスは眉を寄せた。アカデミー入学について直ぐさま却下できるほど、キラの立場が良いものではないのは本当だったからだ。
自分と共にプラントに在ることを決意してくれた彼が、敵となる可能性はない。しかしそれは自分にしか言えないことだ。
この絶大な信頼を恐怖を抱く者一人一人に言い聞かせるのは不可能。
「・・・・」
「以前、ヤマト准将を軍施設のほうでお見かけしたわ。その時はジュール少佐と一緒に軍事訓練をなさっていたのだけれど」
畳み掛ける叔母にラクスは言い返す言葉を思い付かなかった。全てが事実である以上何も言い返せない。
弱点を的確に突く叔母に一切の隙はない。
「アカデミーでは規律もそうだけれど一通りの軍事訓練を学べるわ。古参の者の気持ちを変えるのは一朝一夕では無理でしょう。けれど彼がアカデミーで学ぶことを知った若い者たちは?単純なことでも効果はあると私は思うの」
反対する理由を見出だせないラクスは俯いてしまった。どんな状況に於いても真っ直ぐ前を見据える。その強さを持っている彼女の唯一の弱点がキラだった。
すっと一瞬目を細めたアイリスに、俯いていたラクスは気づけない。
「もちろんこれはただの提案よ。ヤマト准将のご意向もあるから。ただアカデミーの理事として良いことだと思ったから貴女に伝えたかったの。私の立場なら便宜をはかることもできるわ。必要な講義だけを受けていただくとかね」
MS運用について他の追随を許さない能力を持つキラにとって、アカデミーでの一部の講義は不必要だ。半分ほどで済むだろう。
オーブの軍籍を併せ持つ今、キラには軍部の重要な役目は与えられていない。悪く言えば名前だけの立場である。
アカデミーで指揮官として軍人として必要な講義を受けても何の支障もないのだ。
「ヘンリには……国防委員会の了承は取ってあるから、貴女からヤマト准将に打診してくれないかしら」
「・・はい」
叔母の提案を躊躇う理由は恋人を恋しく想う心。私情に染まった考えをこの場では口にしてはならないのだ。ラクスはいつものように叔母に微笑みかけた。
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