TIR NA NOG

□雪解けの抱擁、嘘つきの涙X
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『――ありがとう』





あんな別れ方は卑怯だったのかもしれないと、ラクスはふかふかな背もたれに身体をゆったり預けながらぼんやり思った。


何も言わず別れるつもりだった。



けれど、廻り合わせで、キラはターミナルに現れた。その瞳に篭ったいくつもの感情を、ラクスは今でも目に焼き付いてる。



怒り、戸惑い、哀しみ。問い質したい、そんな意思が伝わってきたけれど、彼女はそれを許さなかった。






笑って、ありがとう、と言った。



さよなら、と言うべきだったのかもしれないが、それだけはどうしても言いたくなかったのだ。


もう一緒には居られないけれど、また出逢いたいから。だからさよならは辞めた。





もともと、さよならも、何も言うつもりはなかった。何も言わずに別れるつもりだった。



戦争が終わり、停戦の話し合いの仲介をして、プラントに戻るように言われた時、別れは決まった。一緒にという選択肢はなかった。





フリーダムが墜ちた時に、ラクスは強く思ったのだ。キラをもうたたかわせたくないと。



賢明な彼女は自分の存在が持つ危険性をよく理解していた。英雄と持て囃されるのと同時に在る憎悪。






戦争で生まれるのは憎悪だけ。




暴走してしまったといえ、デュランダルを支持する人は多かった。

コーディネーターにもナチュラルにも。






ブレイク・ザ・ワールドを起こしたザラ派の残党のように新たに徒党を組む可能性があり、その矛先が向くのは己自身だとわかっていた。またブルーコスモスの標的になる要素もある。



もう静かに暮らして行けるはずもない。



もしそんな方法があったとして、責任から逃れまた悲劇が生まれてしまったら。




考え抜いた結果は、八方塞がり。









『‥‥キ‥ラ』





再会の約束はしなかった。また出逢いたいけど、約束はできなかった。ラクスは自分が嘘つきであると自覚している。


恋人が必死になっていた約束も反故にして、自分が信じる道を優先させた。




その約束は違う形で、果たされたけれど。







『・・でも、もう‥その約束もありませんわね』





再会を結んでくれた指輪は自分の元に戻っている。返す機会がなかったから、だけれど。


なんとなく、指輪がキラとの絆を結んでいてくれたような気がした。




父とは引き合わせてくれなかった指輪は、何度もキラと引き合わせくれた。









『‥‥わかって、くださいな』




貴方が大切だから。愛しているから、わたくしは別れを選んだ。


それをどうかわかってほしい。







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