TIR NA NOG
□雪解けの抱擁、嘘つきの涙U
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ユニウスセブンが地球に落下した影響で静かな暮らしを送っていたマルキオ導師の孤児院は流されてしまった。
浜辺に残った残骸を子どもたちと一緒になって掘り起こしていると、久しぶりに聞く声がかけられた。
いつしかと、同じ声音。
『――ラクス』
夢から目覚めよ、という合図。
落ちたユニウスセブンと同じように、あの夜に夢見たことが落ち始めてしまったのだと、わたくしは感じた。
振り向きたくなかった。
それこそ、もう、戻れないから。
『‥バ、バルトフェルド隊長』
彼は無駄なことはしない。
“ここ”に来たということは、目的があるからだ。
『バルトフェルドさん、お久しぶりです』
横に居たキラに、わたくしは無意識にもたれ掛かってしまった。
『流されたと聞いて様子を見に来たんだ。大丈夫だったかい』
『はい。シェルターに居たので。でもさすがに家は駄目ですね』
『住む所がないだろうと思って来たんだよ』
『…バルトフェルド、隊長』
目が合った――砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドと。
彼は新しい家と情報を持って、わたくしの前に戻ってきた。
孤児院が直るまでという建前で連れて来られたのはアスハ家の別荘だった。大きな屋敷に子どもたちははしゃぎ、辺りを探険するのだとキラを連れて元気に出て行った。
わたくしは逃げれなかった。
聞かなくてはならない、彼の話を。
クライン派からの報告を。
『――ユニウスセブン落下の真相は、コーディネーターによるテロと判明した』
『……』
ひたひた近づく戦争の足跡。ユニウスセブン落下がもたらした地球の被害を考えれば、丸くおさまるはずなどない。
『ザラ派の残党らしいが、破砕作業時の戦闘で全員死亡とのことだ』
『・・そう、ですか』
『それと、その戦闘にアスランが参加したそうだ』
『アスラン?彼は今、プラントに』
『どうなっているのかねぇ、まったく。こっちが掴んだ情報では新造艦にカガリと一緒に乗り込んでいるらしい』
わからないことだらけだった。
事実だけが並べられても、何が起ころうとしているのか不透明すぎて。
『プラントもなんだかきな臭い。僕はこのままここに留まるよ。ラミアス艦長もこちらに来るそうだ』
『……そ、れは』
『君の護衛として、だ』
護衛――つまり、クライン派の盟主として、戻らなくてはならない、ということだ。
バルトフェルド隊長が地球に降りたのは、クライン派を束ねるラクス・クラインの護衛兼連絡係としてだった。
『それと、決めてもらわなくてはならないことがある』
『…はい』
アレを直すか、と尋ねた時と同じ声音。
『ZGMF-X20A、‥我々の手にあるアレをどうすべきか、決めてくれ』
ZGMF-X20A、フリーダムの後継機として開発され中断されている次世代機。
報告書だけにしか記載されていなかったことが、今こうして口で告げられた。
言うことなどひとつしかない。
開発再開、の一言。
けれど、それはまた新たな裏切りだった。
恋人の平和な生活を祈り願いながら、裏では新たな兵器の開発を進めさせる。
再び世界が混迷の闇に突き進もうとしているのをわかっているから、政治家としての自分が決断してしまう。
己の中で政治家の自分が背負う責任が大きすぎて、彼を愛している自分が潰れてしまう。
本当の願いが押し潰されていく。
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