TIR NA NOG

□雪解けの抱擁、嘘つきの涙T
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嘘つき――と故人を罵ったことがある。


誰かを罵倒する行為は好まれることではないと知っていたけれど、わたくしは、哀しかったのだ。


哀しくて、辛くて――独りで呟いた。













深い闇が広がる宇宙。

美しい青い星を目差していた。

愛する男性(ひと)を再び戦争に戻す兵器を積んで。



かつて自分が彼に授けた剣は折れた。




折れることを予期していた、とは言わない。


折れる、ということは乃ち、彼が敗北するということだから。


わたくしは信じていた。


彼は誰にも負けない、と。




絶対に死なない、と。


戦争において敗北は死を意味する。



たくさんの生命が一瞬で消えて行く戦争に身を置いているのに、死なない、と信じるのは愚かなことだ。




前提が死である戦争。




一番大切で絶対に失えない存在である彼を、わたくしは戦争に引き戻してしまった。



引き戻した張本人であるのに、死ぬことはないと信じる。なんて都合が良いのだろう。



そんなもの、自分の心を守る盾に過ぎないと知ったのは、フリーダム撃墜の知らせを受けた時だった。



情報収集やAAとの連絡に使っていたターミナルからの報告ではなく、ザフト内部に居る同志からの情報。





たった一言。フリーダム撃墜。


目の前が真っ暗になった。


詳しいことは不明。ただフリーダム撃破は間違いない、という訃。





予期していなかったことに、何も考えれなくなってしまった。一勢力を預かる身に要求される大局を見極める視線。



時には先読みをすることもある。



それすらも超越した報告に、脳が激しく揺さぶられた。




兵器である以上、いつかは墜ちるものだ。



たとえ最強の名をほしいままにした、彼のモビルスーツだったとしても。




そう頭は訴えた。けれど心には響かない。







――彼が乗っていたのだ、フリーダムには。





モビルスーツに乗ることなんか、戦争をすることなんか望まない、優しい彼が。




直ぐにターミナル経由でAAと連絡がつき、彼が無事だと分かったけれど、それでも一度凍り付いた心臓は溶けてくれなかった。






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