TIR NA NOG

□The Previous Night
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――旅立つ友を見送るのは、悲しいけれど嬉しくもある。



幸福への旅立ちだと、余計に。







The Previous Night








一定の距離を開けて墓石がどこまでも繋がっている。点々と花が供えられていた。


目的の場所まで足を運びながら、アスランは花をぼんやりと目で追う。






二つの花束を抱える彼は、自分のものに目を落とす。何も考えずに選んでしまったことを少し後悔した。



なかなか来られる場所ではないのだから、好きな花を選べばよかったのかもしれないと思った。










「――母上、・・父上」




両親の名が彫られた二つの墓石の前に片膝をついたアスランは抱えていた花束を墓前に供えた。


母の隣に父が埋葬されていると彼が知ったのは数年前のことだった。埋葬といっても二人の遺体はない。彼の両親はそれぞれ核の光に呑まれて消えてしまった。






数年前、かつての婚約者から墓の存在を知らされた時、既にアスランはプラントに居なかった。


プラントを離れる決意をし、オーブの軍人として働いていた。





准将として多忙を極めていた彼はプライベートで故郷を訪れることができなかった。


だがどうしても一度両親の墓参りをしたく、無理矢理に時間を作ったのだ。








「ぜんぜん来れなくて、…すみません」




オーブで准将という立場になったことで、アスランの行動はかなり制限されている。


平和を謳歌しているとはいえ、国外に単独で出ることは好ましくないのは彼も重々承知していた。それでも、どうしても、とアスランは望んだ。





持つべきは権力者の元婚約者――彼はラクスに頼み、極秘にプラント入りを果たした。



今やオーブの要人で国賓レベルのアスランだが、目的を聞いたラクスは快諾し叶ったのである。









「……アスラン」




これまでのことを両親に報告していたアスランは名前を呼ばれゆっくりと振り返った。


予想していなかったことだけに、内心とても驚いている。しかし突拍子もない行動は“彼女”にとって珍しいことではない。





その昔、さんざん振り回されたアスランは、苦笑いをこぼす。










「――ラクス」




振り向いた先には、今回の功労者であり恩人の、かつての婚約者の姿があった。


プラントで、こうして二人になるのは、いったいいつ以来だろうか、とアスランは思う。



婚約者として出会った日の驚きが、決別した時の衝撃が今ではとても懐かしく思えるのは、何故なのだろう。








「いけませんよ。護衛もなく、無防備です」



「…貴女に言われたくありません」




アスランと同様に花束を抱えたラクスは微笑みながら彼に説教をする。


しかしアスランからしてみれば彼女のほうこそ無防備だ。戦闘訓練を受けている自分と、そうでない彼女。



コーディネーターの社会を統べる立場になっても、どこか掴み所のないふわふわとした印象が抜けないラクスに、アスランは眉を寄せる。いくらプラント国内が落ち着いていてももしもを考えるべき立場にいるのに、一人で現れるなんて、と続けそうになったアスランを笑顔で躱したラクスは花束を供えた。






胸の前で手を組み追悼の姿勢で祈るラクスに、アスランは毒気が抜かれた気分になる。





14の時に出会ってもう10年は経ったのに、何も変わっていない自分にアスランは気づいた。







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