TIR NA NOG
□黎明の光、明けた蒼穹U
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《黎明の光、明けた蒼穹U》
「――子どもを、つくりましょうか」
作り物の空が暁色に染まる頃、キラの胸の上に頭を預けて微睡んでいたラクスはポツリと呟いた。
同じように夢うつつで居たキラは、恋人の突然の子作り宣言に意識を浮上させる。
「‥‥ぇ?」
急な大胆発言は胸を騒がせる。
キラは首だけを上げ恋人の顔を確認しようとするが、当の本人は目を閉じて気にした様子はない。
「ら、ラクス?」
一瞬、聞き間違えたのかと思った。
欲求不満を解消したばかりなのに、そんな間違いをする自分の頭が可笑しいのかと首を傾げたくなる。
今日はクッキーを作りましょう、みたいなノリで聞こえたから余計にそう思えた。
「・・なんで‥す、か?」
頭がクリアなキラと違い、ラクスはまだぼんやりとしているのか反応が鈍かった。
返事をしたものの眠気に逆らおうとしていない彼女は目を開けようとしない。
「い、今さ、何て言ったの?」
「んー‥?」
ドキドキと騒々しい胸を抱えながらキラは思い切って尋ねてみた。耳にはまだ恋人の爆弾発言が残っている。
誤解ならはやく解いてしまいたい。そうしなければ、ザワザワして眠れそうにない。
「何をつくろうって言ったの?」
「子どもを、つくりましょう、ですか?」
「!?」
聞き間違えではなかった!とキラは目を見開いた。やっぱり子作り宣言だった!!ななななんでッッ?!胸が静かになるようにと尋ねたのに、まさかの事実に、鼓動が更に暴れ出し、キラは息を呑む。
(こ、これは、そういうコトなのか?まままさかのラクスからお誘いッ?!)
もぎ取った休暇があるためと、思う存分発散したはずの欲がゆっくりと沸き起こる。
慎ましい恋人からのお誘いは本意が見えなくてもキラをムラムラさせるには十分だ。
(――す、据え膳食わぬは男の恥‥‥いやいや、もう食べちゃったし…っ!)
一人漫才を心の内で繰り広げながら、キラはサワサワとラクスの背中や腰に手を這わせ撫でる。戸惑いつつも、ちゃっかり触り始めるのは本能故だ。
しかしその欲を孕んだ手は愛しい恋人に叩かれてしまった。
「へ?」
「もうえっちなことはしません。わたくし疲れましたわ」
「は、はい?」
「キラも早く寝ましょう?…遅くて、も、お昼には起きて、‥‥お出か、け、を」
夢の世界に半分突入しているラクスはキラの胸から隣に転がり、フカフカのシーツを身体に巻き付け穏やかな寝息をし出す。
背中を向けられ、あまつさえシーツで身体をすっぽり覆うのはわかりやすい拒絶のサインである。
ラクスの発言にすっかり翻弄されたキラの眠気は木っ端微塵に吹っ飛んでいた。
目はぱっちりと冴えて、身体も程よく温まってしまっている。
「………え?・・なに、コレ」
状況がまったく飲み込めないキラはしばらく呆然としていた。
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