TIR NA NOG
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慣れない軍服を着るのは結構大変だ。
ザフトの軍服は一度しか袖を通していないから余計に時間がかかったし、緊張で少し手が震える。
シャトルが入港した後の予定を何度も頭の中で反芻しながらだと、中々着れなかった。
「――技術者たちは議員たちに出迎えられてマスコミにスマイル。その間にオーブ代表名代として来ているアスランは国防委員会に僕を引き渡して、ラクスと会談。………その後ってどうなるんだろ」
ふとその後のことについて何も考えていなかったことに気づく。
アスランは日が変わり次第オーブに戻る予定だ。国防の要である彼が国を離れているのはよくないし、ザフト関係では気まずい。
長居の予定はないのだ。
歓迎の晩餐会があるからそれには出るかもしれない。けれどその後は?
技術者にはホテルが用意されてるから寝床には困らないだろう。
ラクスと再会できても、彼女が頑ななままだったら。僕は技術者兼ザフト所属だから仕事はある。でもこのままいったらすれ違いコース確定だ。
「………どうしよ」
キラは自分の頭が憎らしくなった。
コーディネーターだからか回転が速い頭脳は悪い状況ばかりを思い付き、その妄想は映像となって頭を突き刺す。
ベッドに力無く腰掛けたキラは頭を抱えた。
ラクスが厄介な性格の持ち主である熟知しているのは他でもない自分だ。
達観しているだとか、寛容だとか、優しいだとか、色々と言われているのは知っている。
けれどその実は結構違うのも知っている。
彼女という女性(ひと)は、とてつもない頑固で意地っ張りだ。
そして普通な女の子だということも、よく理解している。
音楽が好きで、買い物が好きで、花が好きで長風呂が好きで、食べることも好き。
実は寝坊することも好きだったりする。
木漏れ日の中でまどろむことも好き。
波打際で戯れることも好きな普通の子。
普通の女の子であるとよく知っているのだ。
その姿をずっと見てきたから。
戦場を真っすぐ見つめる姿も彼女だけれど、草の上を寝転ぶのも彼女なのだ。
普通であることを喜ぶのもまた彼女だ。
気弱になったりすることもある。
それを知っている人はどれだけ彼女の側に居るのだろう。
誰が弱い彼女を支えてくれていたのだろう。
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