TIR NA NOG
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《――だからさ、ラクスも諦めてくれないかな?僕は君の意見を尊重するのを諦めたから、君も僕から離れるの諦めてくれる?》
通信機越しに聞こえた言葉に、ラクスは思考が停止した。聡明であると幼い頃から評価されてきた彼女にとっても、たった今、彼が放った言葉の意味を瞬時に汲み取ることができなかったのだ。
自分の恋人であるキラ・ヤマトの言葉は、あまりにも勝手で傲慢であった。
「‥な、にを・・仰って」
《あれ?わかりにくかった?だから、僕は君の意見を尊重することを諦めたの。だって苦しいだけで楽しくないし》
同じ内容を朗々と語る恋人にラクスは絶句した。悩みに悩んで搾り出した結論を尊重するのは辞めたと宣わる彼の真意が読めない。
《そんなかんじだから、君も僕を突き放そうとするの諦めて?ね?これでフェアだ》
何処が?とラクスは聞き返したかった。
しかし不思議なことに喉が動かせなかった。
詰まってしまって何も出てこないのだ。
《……君が悩んで出した結果を、僕も悩んだよ。悩んで悩んで、寝不足になるまでずっと悩んだ。僕を棄てる決断をした君の心のことなんか考えたくなかったけどね》
「――ごめ、ん‥なさ」
漸く発声された言葉は謝罪だった。
離別を選んだことに後悔は無い。
けれど謝罪しか口から出なかった。
《・・なんで謝るの?》
「っ」
《‥‥‥後悔なんかしてないくせに、謝んないでよ。聞きたくない》
――棘だ。
ラクスはキラの常より低い声音に、胸を刺されたような傷みを感じた。
真実を言い当てられて傷ついている自分に嫌気がさす。傷つく資格など無いのに、と思いながらその傷みに堪える。
息をするのも忘れて、ギュッと目を閉じた。
それからどのくらい時間が流れたのか。
黙ってしまったラクスと一緒にキラも何も発することはなかった。通信が終了していないことをライトで確認しなくてはならないほど、通信機は無音だった。
《――僕を大切って言ったのは・・本当?》
静かだった通信機が次にラクスに届けたのは、棘を纏った声ではなく、酷く弱々しいものだった。
胸の傷みを忘れさせてしまうほど、細いキラの声にラクスは顔を上げる。
向かい合っていないことなど承知していても、そこに、目の前にキラが居ると錯覚してしまう。肩を落として顔を伏せて、そしてどうしようもなく心配になる声で言葉を紡ぐ愛しい彼を求めてしまう。
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