TIR NA NOG
□U-[
1ページ/6ページ
泊まる所を手配していなかったこと、現金があまり無かったこと、カードの類は明日のオーブからのシャトルに乗せた荷物に誤って詰めてしまったことをあわせ、僕は今、ザフトの宿舎に居る。
本来なら部外者を軍の施設に入れることは叶わないが、イザークがわざわざ手続きに来てくれたおかげで、ビジターとして一泊の許可がおりた。
その時ついでにラクスと連絡を取りたいと希望を言えば、盗聴の心配がない秘匿回線を教えてもらった。
最後に彼女の予定も聞いた。
議長の職務に忙殺されている彼女の仕事の邪魔はできるだけしたくない。
多分長くなるから。
だから暇そうな時間帯を尋ねると、夕方には屋敷に戻る予定だと聞かされる。
教えてもらった回線も家の方に繋がる用のモノだとも。
シンの部屋にお邪魔する予定だったが、晴れてビジターの地位を得た僕は客室を貰った。
シャワーを浴びてから、時計を何度かチェックする。彼女が帰宅し一息ついたあたりを頭の中でシミュレーションしてみたり、落ち着かなかった。
同じ地に居ると思うだけで気分が昂揚するのに、あと少しで声を聞くこともできる。
僕だけの声を。その声音が怒声だったり罵声だったりしたとしても、構わなかった。
彼女の説得は相当至難の業だ。
そんなこと解ってる。
だから直接会うのを延期した。
本当は今すぐにでも会って抱きしめたい。
彼女の柔らかさを全身で堪能したい。
冷静に話をするなら、まだ距離を置いていたほうが僕にとっても良かった。
冷静でいられる自信がないから。
「‥‥よし」
イザークに教えてもらった回線を開く。
少し指が震えて、何回か間違った。
冷静でいられるけれど、緊張するのは仕方ない。
.