TIR NA NOG
□U-Z
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ザワザワと騒がしい街並みを歩き進みながらキラは横に並ぶシンを覗き込んだ。
「――着替えなくてよかったの?」
「い、いえ」
さっきから幾人もの視線、好奇の眼に当てられるシンは口端を引き攣らせながら言った。
クライン邸を後にした二人はダウンタウンに来ていた。滞在するホテルに戻りますか、というシンの提案は、ホテルを予約していないというキラの言葉で却下される。
代わりにお腹空いたというキラの言葉に、なら何か食べに行きましょうと、シンが再提案したという流れだった。
ザフトのエリートの証である赤服を纏い街中を歩くシンは、とにかく目立っている。
人と擦れ違う度に振り返られ、上から下まで視線を浴びた。居心地が悪いが着替えることもできないのでひたすら無視を続行する。
「それより、何食べたいですか?」
「うーん、そうだなぁ」
気を遣わせるのが心苦しく思いシンは話題を変えた。首都アプリリウスの中心街には何でもある。きっとある程度の難題でも解決できるはずだ。
「実はあまり換金してなくて。手持ちが少ないから、ファーストフードとかでいいんだけど。シン君は?」
「ファーストフード!」
久々の単語にシンは何故だか嬉しくなった。
庶民に優しい食事所代表ファーストフード。
彼にはすっかりご無沙汰な単語だった。
周りの上司がほぼブルジョア層で固められているシンは、ファーストフードに寄る機会が滅多に無い。
食事をしましょう、という流れになっても何処何処の高級レストランやホテルが当たり前の半年だった。
ジュール隊長たちとも親睦を深めては、というラクスの助言に、イザーク、ディアッカ、シホ、そしてルナマリアの5人で夕食を共にする機会があった時、シンは連れていかれたレストランに目が点になった記憶がある。
居酒屋みたいな所を想像していたのに、国家間の会談にも使われる有名なホテルに入った瞬間、シンは財布の心配をしたものだ。
イザークの奢りでその場は助かったが、手持ちでは足りない料理を食べた気がする。
議長執務室でも出前を頼んだラクスと同席した時、丼物でも来るのと予想していたシンはシェフ自身が来たのは本当に驚いた。
昔から贔屓にしているお店なんですの、と満面の笑みで言われ、何も言えなくなったシンは黙って美味しい料理を口に運んだ。
感覚が違う、とシンははっきり意識した。
「嫌だった?ファーストフード」
「いえ!ちょうど行ってみたい店がファーストフードの店で近くですから案内します」
同じ感覚を共有できる貴重なキラに、シンは嬉しさのあまり視線を浴びていることをすっかり忘れていた。
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