TIR NA NOG
□U-V
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評議会の定例会議が終盤に差し掛かった時、国防委員会の急な提案にラクスは一瞬眉を寄せ、確めるように言った。
オーブからの技術者派遣についての受け入れの最終確認の直後のことだった。
「……軍人の地位を?」
議長の問いにヘンリは静かな口調で答える。
「はい。技術者の一人がこれを機にプラント移住を望んでいます。オーブでも軍に所属していますし、問題無いと思います」
「秘密保持についての危険性は?」
オーブの軍人をそのままザフトに受け入れる等、信じられない。
思慮深いヘンリらしくない言葉に、ラクスはその真意を探ろうとする。
「皆無とは言えませんが、それ以上に利点があると存じます」
「‥‥国防委員会の、総意ですか」
「はい」
国防を要とする国防委員会が太鼓判を押す技術者。プラント移住を希望する優秀な人材を、ザフトに組み込み囲い込むつもりなのだろうか。
「その者は何と?」
「是非に、と」
「・・・・」
ヘンリの言葉にラクスは黙り込んだ。
カガリが選定した技術者を疑いたくないが、何か下心がありそうで気になる。
「待遇はどうなさるおつもり?」
「実績を考え白服を、考えております。当面はザフトへの技術支援指導という名目でオーブ軍籍も保持することになりますが、それでも国防委員会は引き入れたいと思います」
「まぁ」
ラクスは素直に驚いていた。
自分に他人に厳しく、滅多に人を誉めない鉄人のような叔父が、賞賛する人物がオーブに居たなんて。
聡明なラクス・クラインなら直ぐに察しがついたかもしれない。しかし、寂しさを紛らわす為に“彼”のことを極力頭から排除していた彼女の穴を、ヘンリは上手いことすり抜けたのだ。
「ランカスター委員長がそう仰るなら、認めましょう」
「ありがとうございます」
所属は?部隊の構成員は?という諸々の疑問はあったが、軍部については国防委員会に一任しているラクスは笑顔で議会の終結を宣言した。
国防委員会には兄と慕うバルトフェルドが控えているからこそ、安心できる。
砂漠の虎が、それを認めているなら、きっと大丈夫なのだろう。
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