突発倉庫

□凡人の不器用な恋の仕方X
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《凡人の不器用な恋の仕方X》









二年前、僕は彼女を壊そうと思った。









『――っ、ダメだこんなの‥!』






浮かんだ旋律を楽譜に写す途中で単調なありきたりなメロディーに気づき、キラは紙をグシャグシャに潰した。


持っていたペンも投げ捨て、ピアノの前から逃げる。近くにあったソファに倒れ込み、キラはクッションに顔を押し付けた。









(ダメだあんなんじゃ。また、また、ラクスの期待に答えられないッ)





キラは脳裏に浮かんだラクスの表情に眉を顰め胸に走る傷みに息を詰める。


最近気づいた彼女の表情にキラは苦しみもがいていた。曲が完成する度、一瞬垣間見せるラクスの暗い顔に気づいた時、キラは焦りをはっきりと感じた。





すでに歌手として称賛を集め始めていたラクスと、ただの学生でしかない自分。





近かったはずなのに差は広がるばかりで、どうすることもできない。



焦って練習や曲作りに没頭しても空回り。






コンクールでも良い結果に恵まれず、担当教諭にはスランプだと言われる始末。



最初はスランプだと、彼自身も思っていた。


長いスランプだと。



しかしいつになっても抜けない。





更に焦燥に駆られたキラの精神状態は酷く荒んでいった。



曲を作りかけては途中で止める、というのはここ数ヶ月で数え切れないほどあった。





自分でも納得できない曲を、ラクスに渡せるはずがない。




出来損ないしか作れないのに、それでも待っている彼女を思うとキラは苦しくて堪らなかった。







その連鎖はやがて、彼に一つの答えを導き出した。




覆りようのない、酷い現実に、彼は行き当たってしまった。











(‥‥‥やっぱり、僕には才能が)






才能が無い。



落ち込む度にそう思ってきた。




しかしそんな絶望をも乗り越えピアノを続けてきたのは、偏にラクスとの約束と夢のためだった。







小さい頃から傍にいた幼なじみ。




両親同士が昔から知り合いで、音楽という共通点を持っていた僕と彼女はいつも一緒だった。



仕事で忙しいラクスの父親は、一人娘である彼女を心配してよく僕の家に預けていたから、本当にずっと一緒だった。









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