月無夜

□月無夜
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「くっ」




高三の教室は学園の最上階にあり、霊力の絶対値が大きいラクスがいるのは裏庭。





いちいち階段なんか降りてたら間に合わない。








「ラクスっ」




学園内では極力“アレ”は使わないでいるつもりだったが、使わなくてはならない特例事項だか仕方ない。







キラは窓を開けると身を乗り出し、5階から飛び降りた。






「…解放、紫王」





刀、龍飛を鞘から抜き、龍飛に宿る聖龍の封印を解き、召喚する。紫王に捕まり、そのまま下に降下していく。





地面に足が着くと、一旦龍飛を鞘に戻し、霊力の発信元へ急いで向かう。









「…ラクスッ!!」






白が朱に染まっていた。





地に平伏していたのは、カテゴリーBの骸。









冷たい風に彼女の桜色の髪がゆらゆらと揺れていた。








「どう‥なさいまして?」





優しい穏やかな声が、耳に届き、張っていた緊張がとける。




彼女は戦ってくれたのだ。





死なないで、いてくれる。









「――もう戻っていい、白夜」





白夜、ラクスが召喚した霊獣は神々しく輝く、美しい白い毛並みの白狐(びゃっこ)。





退魔一族のクライン家の特別な存在が継承する最強の霊獣。






ラクスは白夜を刀ではなく体内宿し、封じている。





それ故に莫大な霊力を必要とし、クライン一族の者は長生きできないとさえ謂われている。






「……酷いものです。一般には“怨霊”と呼ばれる彼らが力の弱いはずの昼に現れるなんて」








灰と化していくカテゴリーBを冷たく見つめるラクス。


キラはラクスに駆け寄ると、細い身体を引き寄せた。







「…き、ら」




「勝手に消えないで」






か細い声で囁くキラは小さく震えていて、ラクスはゆっくりと瞼を閉じ、キラを受け入れた。











―――――――




怨霊対策室。




その存在を知る者は政府のごく一部と、フリーで退魔を行う者達だけである。









「お疲れ様、ラクスさん。これが、頼まれてたものよ」





怨霊対策室、別名アークエンジェル。そしてアークエンジェル室長、マリュー・ラミアス。




マリューは“バイト”に出勤してきたラクスに数枚にまとめられた資料を手渡した。








「ありがとうございます」




「いいのよ。あなたの頼みですもの、オーナー?」









「やめてくださいな。わたくしはここのバイトにすぎません」




ラクスはそう言ってマリューを交わすと、渡された資料に目を通し始めた。










「……これは」





「――気がついた?わたしも貴女に言われて驚いたわ。昨夜のカテゴリーB、それと今日のもの。あなたたちが交戦に入る前に大きな特異点があったの」









「…彼らはこれの影響で」




ラクスは特異点を指差すと、冷たい焔を宿した蒼い瞳を静かに輝かす。





「――わたくし、少し外を見回りに行って参りますわ」







ガタンと椅子から立ち上がったラクスをマリューは慌てて止めに入る。













「だ、だめよラクスさん!!キラ君があと30分もすれば来るからそれまで待ってちょうだいっ。昨日貴女を一人で行かせたこと、彼怒ってるのよ」





「……大丈夫です」







ムッと表情をかたくしたラクスは、マリューを振り切った。











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