絶対零ド
□絶対零ド
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―あの方が、皇女殿下ッ―
―なんて、お美しい―
―貴い血族の!―
アスランにエスコートされ、ホールに現れたのは、大きく胸の開いた白いドレスに、皇玉を中心にそえ、いくつもの青い石をあしらった大きな首飾りは、ぬけるような彼女の白い肌に、よく映えた。
「…ありがとう、アスラン」
「いえ」
アスランの母レノアはルレリアの妹で、ミーアとはイトコ、ラクスとはハトコにあたる。ザラ家はクライン家の遠縁にあたり、ラクスの出現をもって、皇族派の貴族となった。ザラ家現当主パトリック・ザラは、皇族の出現を嘱望していただけあり、ラクスの出現にとても喜んだという。
アスランはキラの幼なじみであり、彼が皇太子となり皇位継承を夢見ていた一人である。しかし、ザラ家に連なる者として、当主である父の決定は軽いものではない。
アスランは、複雑な想いを抱えたまま、ラクスに一礼すると、離れていった。
「初めての方もいらっしゃいますね。この度、皇宮に入りました、ラクス・セレーナ・ド・ウル・フォーレイル・クラインです」
優しく微笑みかけるラクスの姿に、列席する貴族は一瞬にして心を奪われた。
「陛下の側室ということでしたが、皇位継承権をお認め下さり、皇女ということになりました」
ただ容姿が美しい、というわけではなかった。老若男女を問わず、ラクスに魅了される。貴族はその存在そのものに、憧れを持ち、引き付けられるのだ。
「この場をかりまして、再び、皇帝陛下に感謝を」
玉座に座るエドワードに向かい、ラクスは高々とグラスを持ち上げた。貴族たちもそれに続き、グラスを持ち上げ、あちこちで、グラス同士を合わせた。
静かな音楽が、皇宮直属の楽士たちによって奏でられ、貴族たちは慣れたように踊り始めた。
皇女殿下にお近づきになろうと、たくさんの貴族たちが彼女の回りに集まった。
「まさかクライン家に皇女殿下がいたとはな」
「――アスラン…うん。僕も知らなかった」
ホールの隅にある柱に寄り掛かりながら、瞳に暗い影を落とすキラに、アスランは話し掛けた。
「……キラ。俺がこの間言ったことはっ」
皇女の登場で、キラが帝位になんの興味をなくなったのだ、と勝手に解釈したアスランは、慌ててキラに詰め寄った。アスランは、キラが帝位に就くのをまだ諦めきれないでいるのだ。
「…その、ことはもう、大丈夫。ごめん、ちょっと」
まだ頭の中がごちゃごちゃ。
ラクスは僕の恋人。
ラクスは皇女殿下。
どっちが本物のラクスなんだ。
僕の恋人であるラクスは、森の奥にある小屋で一人で暮らしていたはずなのに、今、この帝国の繁栄の象徴と謳われている皇宮にいて、貴族の輪の中心で笑っている。
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